おきなわ連載 vol.1

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小さくてシンプルな

川口美保(CONTE)

20代、30代と、ずっと東京で雑誌編集の仕事をしていた。
それは本当にやりがいのあるものだったが、そういう時こそ、私はいつも沖縄に流れる時間を思い浮かべた。星野道夫さんが書いていた「ぼくたちが毎日を生きてる同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている」という言葉に重ねれば、私にとって「もうひとつの時間」はいつも沖縄だったように思う。
なぜだろう。沖縄を旅し、沖縄の人々の暮らしに触れるたび、この島には、人間が生きる原点に立ち戻るような、何を本当に大切にすべきかを身体の奥から思い出させるような、そんな力があると感じていたからだと思う。
40歳になった時、沖縄に住むことを決めたのは、そんな場所で「暮らし」に重心を置いた生活をしたいと思ったからだ。いまは、夫と一緒に首里城の近くの路地裏で飲食店を営んでいるが、東京では感じ得なかった、「暮らし」があってこその「仕事」なんだということを初めて実感している。

私たちが沖縄で店をやるにあたって決めたことがあった。それは、沖縄で育まれた食材を使った料理を、沖縄に生きる陶芸家たちの器を使って出そう、ということ。

その時季の食材を使うということは、野菜から沖縄の季節が見えるということでもある。年のほとんどが夏の気候の沖縄ではあるが、土にもっとも近い野菜たちからは季節の移り変わりがちゃんと感じられる。畑人(ハルサー)との繋がりもでき、実際に畑を見学にいったり、この時季はこんな野菜が採れるよ!」という声も届いたりして、それもまた沖縄の土地を知ることに繋がる。また、沖縄の木や土でつくられた器にはやはりこの土地の力が宿っている。その器を前に、この人のこの皿にあの人の野菜を使った料理を乗せたら合いそうだなとイメージが膨らんできたりもする。
そんなふうに、お店をはじめてからというもの、畑人の顔が浮かび、器作家の顔が浮かび、仕入れている珈琲の焙煎家や天然酵母パンの作り手の顔が浮かび、それを食べてくれる常連さんの顔が浮かび、どこにもここにも顔が見えるようになった。お客さんが「器素敵ですね」とか「珈琲美味しかった」と言えば、その言葉をそれを手がけた人に伝える。そういう時、一人一人の喜びの顔が連なっていく実感があって、思いが循環するってこういうことなんだ、と、しみじみと感動する。

私たちの店の名は、フランス語で「物語」という意味の「CONTE(コント)」という。人参一本、お皿一枚、パンひとつ、珈琲豆一粒に、人の思いや物語がある。
そのひとつひとつの物語を大切に受け取って、大切に受け渡したい。そして、そのバトンがまたその人のもとで新しい物語を紡いでいくことを願ってつけた店名だ。
実際それはとても小さな循環かもしれない。小さな店だからこそ見えることなのかもしれない。もっと言えば、小さな島だからこそ。だけど、私はこの小さくてシンプルな循環が、いま、とてもしっくり来ているし、それこそが、この土地に生きているという確かさの証拠のような気がしている。これが、自分が東京にいた時に沖縄に描いていた、人間の暮らしの基本なのかもしれない、と、腑に落ちる。

こんなふうに、目に見えない繋がりの確かさや、循環していく素晴らしさや、思いを受け継いでいく心を、日々実感あるものとして感じていけたらいい。それを積み重ねていった時、それがきっと、人間の本質的な生きる喜びに繋がるのではないか。沖縄に住んで5年目の春、暮らしの中で仕事をしながら、そんなふうに感じている。

CONTEで作品に触れることができる沖縄のアーティストたちを紹介。

1

堀内加奈子(沖縄民謡唄者)

店にとって音楽も重要な要素。北海道生まれの彼女が師匠・大城美佐子さんの元で沖縄民謡を覚え、いまや沖縄を代表する唄者の一人であること。生まれた場所を越えて「島の心」を受け継ぐ人の唄は胸に響く。

2

紺野乃芙子(陶芸家)

料理と器の関係は深く、器から料理が浮かぶことも。やんばるの大自然の中に工房をかまえる紺野さんの器は、土、水、風、光、火といった自然から受け取ったものが形となっていて、力強い沖縄の食材が似合う。

3

BEBICHIN(絵描き)

店内に飾っている絵のひとつがBEBICHINさんの作品。雨風太陽にさらされた古いブリキの錆の形を活かし、そこに物語を重ねるようにして絵を描いた作品は、どこか異国からの手紙のようで、時空を越えている。

4

石川竜一(写真家)

店の本棚からは写真集『絶景のポリフォニー』を紹介。沖縄のリアルを写し出す彼の作品は、一枚一枚が強いエネルギーを放っていて、決して目を逸らすことができない。めくるたび。「生きた沖縄」が胸に突き剌さる。

5

山田哲史(COFFEE potohoto 焙煎家)

焙煎家こそアーティスト。研ぎ澄まされた感性と積み重ねてきた経験・技術が両輪となって生み出される彼の焙煎によって、CONTEの珈琲の質は保たれる。深煎りなのに果実味をしっかり感じさせる珈琲をぜひドリップで。


6

川口美保

雑誌「SWITCH」の編集者を経て、2014年沖縄移住。編集・執筆の仕事も続けつつ、2015年、夫と、首里で沖縄食材を使った料理のお店「CONTE(コント)」をオープン。沖縄内外のミュージシャンを招いての「夜コント」や、ナチュラルワインと食事の僉「満月コント」など、様々なイベントも関催している。
http://conte.okinawa[那覇市首里赤田町1-17]

パンの力強さと樹々の中にある店のあたたかさと龍馬さんの優しさ。
プラウマンズに行くと、心が喜ぶ。力が漲る。
次の書き手は、そんな北中城にあるプラウンマンズランチペーカリーの屋部龍馬さんです。


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