SHIPS MAG

Photo : Kenichi Yamaguchi
Design : Yuuki Ikegami
SHIPS MAG 連載中「一期一会」by 桑原茂一 連動企画
飛ぶ鳥と踊る勢い!ドリーム・ファクトリーの女王「 森本千絵・goen°」に遭遇した。
笑顔の裏にはわけありストーリーが満載だった。
価値を生み出すのはものの価値ではない。
価値は、ものを作り出した人々から、それを必要とする、人々から引き出すものなのだ。
夢工房の肝を万華鏡を見るように教わった。
森本千絵の分けが分かったインタビュー(抜粋)編。

森本  この前、ある人に「起きた瞬間の感情を覚えているか?」って聞かれたんです。考えてみたら、なんとなく起きていて、目を覚ますことが当たり前だと思っている。今日も目を開けた瞬間の感情なんて意識していないですけど。もしかしたら、自然にスキップさせているそのコンマ何秒の間に、何かがあるのかもしれない。でも、そういう自然とスキップさせている感情にフォーカスを当てて、解像度を上げようとすると、すごく疲れちゃうと思うんです。自分がラクなところをつまんで解釈しているから、どうにか容量が足りていますけど。もしも幸せについて本気で考え始めたら、ディテールを追うことが増えすぎて、容量オーバーになりそう。

桑原  なるほどね。

森本  永遠の命を持っても、そこは変わらなそうですよね。

桑原  人類は「何になりたいのか?」以前に「何を望んでいるのか?」最も大事なことを考えていないように見えます。

森本  確かに。でも、ずっと不幸だった人が、たった1 時間だけでもすごい奇跡を感じることができた場合、奇跡が起きない平均的な人よりも幸せなんですかね? 

桑原  そういう物語が、文学やアートと呼ばれるんだろうけど。でも本当は、ニューロン、シナプス、セロトニン、ドーパミン、オキシトシン、など、さまざまなせい化学物質が脳内で作用して幸福は生まれるそうだから、そういうものが血流に乗って、全身を駆け巡らなければ幸せとは思えないわけで、そういう物質を自由に分泌できるようになったら、何もせず座っているだけでずっと幸せ。それはそれで、どうしていいかわからないよね(笑)子供の頃、何かものを作るとかはやっていたんですか?

森本  箱を組み合わせて、人形遊びしたり。おじいちゃんに生地をもらって何か作ったりはしていましたね。でも、ボーッとしてた子だったんですよ。ほとんど喋らない子どもで。小学校1 年生の担任によると、名前を呼んでも「ハイ」と言わない子だったみたい。

桑原  たぶん、もうすでに自分の作る映画の中にいたんでしょうね。

森本  でも、自分の記憶でひとつだけ不思議なことがあって。ボーッとしてて名前も言えない、ろくに勉強もできない、字も書けないのに、なぜか小学校1 年の後期にラブレターを書いているんです。そのとき、差出人のところにはクラスの女子全員の名前を書いて。私、記憶力だけは良くて、いつも目で記憶してたから、お友だちの顔ではなくて座席表が頭に入っていて。机の配置図を描けば、そこに全員の名前が書けたんです。

桑原  えっ、それって、サヴァン症候群のこと?確か映画の「レイマン」で、描いてたとよね。

森本  あれっ、私病気だったのかな(笑)。それで、ラブレターを机に忍ばせておいたら、男の子が朝礼で先生に言っちゃって。しかも、公園に呼び出すみたいな感じの怪しい内容だったから、先生も差出人の名前をひとりひとり読みながら確認していって。女子全員の出席簿をとるみたいになっちゃったんです(笑)。もちろん、「違います」って私も返事したんですけど。でも、なぜか掃除の時間に先生に呼ばれて、「朝、2年生の人がゴソゴソしているのを見ました」とごまかしたのを覚えていますね。

桑原  へぇ~、まさにチエものだ。

森本  その後、小学校の3・4 年生くらいから急に頭が動き出したのか、少し賢くなったんですよ。それで、ボーッとしていた1 年生の頃のノートを読み返したら、「の」とか「ま」の回転部分が全部逆になっていて。そのときに、「あっ、先生は犯人を知っていたんだ!」とわかって愕然としましたね。完全犯罪だったと思っていたから(笑)

桑原  ( 笑)ラブレターは書いても、文章を書くことには夢中にならなかったの?

森本  ならなかったですね。でも、読書感想文ノートの余白に絵を描くのが好きで。絵を描きたいから、読んでない本をでっち上げていました。いまもそのノートがあるんですけど、タイトルと作者名は適当。描きたい絵が先にあって、それを描くために感想を適当に書いていて。

桑原  架空の絵本がいっぱいあったわけね。

森本  そうなんです。この前、そのノートを絵本専門店の『クレヨンハウス』の方に見てもらって。具体的にどの本があって、ないのかを解明してもらったんですよ。

桑原  森本さんはすでに映画を作ってなきゃいけないし、あるべき絵本も再現しなきゃいけない!(笑)やることが増えましたね。

森本  あははは、あるべき絵本って面白い。あと、やっぱりすべての情報が目から入ってたから、黒板をノートに写すときも、数字を全部りんごにしたり、数式も絵にして、先生や黒板とかも書き込んだりしてて。そうしたら、小野先生に「森本さんのノートを見てください」って朝礼で発表されて、「いいノートで賞」みたいな手作りのメダルをもらって。それが初めての賞だったんです。それくらいから、ものを作ったり、企画したりするのが楽しくなって。その後、中学・高校は女子校で、卓球部に入るんですけど。

桑原  えっ? そこで、なんで卓球部に?

森本  うちの両親が、「社会を知るには運動系の部活に入ったほうがいい」って言うわけですよ。でも、私は遊びたいから卓球ならラクかなって。卓球台に座ってお菓子食べて、ラジオを聴きながら過ごすっていう。本気で取り組んでいた先輩もいたんですけどね。でも、2年生のときに新入生の勧誘をしなければいけなくなって。そこで思いついたのが、一番背の低いハマちゃんを主役にして3 人組を作って、当時流行っていたキョンキョン(小泉今日子)の『見逃してくれよ!』の曲に合わせて、卓球のいろんなスイングをしながら、「い~じゃん!」の歌詞にひたすらハメていくパフォーマンスを企画したんです。そうしたらすごく人気になって、突然12 人くらいの新入生が卓球部に入ってきて(笑)。広告効果がすごかったんですよ。部員が総勢30 名くらいになって、そうしたら顧問が2 人になって、卓球台も増えて、卓球マシーンまで導入されて。そうなると練習せざるをえなくなって、中3 で都大会に出ました。

桑原  あははは、結局卓球が上手くなったんだ。

森本  でも、女子校だったから、後輩から好かれて手紙もらったりとか、だんだん怖くなって。結局、彼女たちの愛を受け止めきれないと思って、卓球部を辞めました(笑)

桑原  それもチエが働いたんだね(笑)

森本  高校のときは、体育の授業でレオタードを着てバレエを踊るみたいな発表があって。私のグループはみんなダンスができなかったので、曲を『ゴーストバスターズ』にして、レオタードではなくセーターを頭から被って、オリジナルの振り付けでコミカルにやったらウケちゃって。そうしたら、ダンス部の先生から、その振り付けをダンス部で使いたいと。その不思議な『ゴーストバスターズ』で、スタイルのいいダンス部の子たちが踊ったら、全国大会で入賞しちゃって。以来、学園祭の定番みたいに引き継がれていったんですよね。そういうことが積み重なって、絵描きというよりも話題を作るという広告の世界に憧れて就職するに至ったんです。

桑原  中学からずっと同じ仕事をしているわけだ、職歴長いですね。

森本  確かに長いですね…。卓球部員を12 人も入れて、部室まで広げたら、ギャラをもらってもいいくらいですよね(笑)

桑原  ユーミンの『宇宙図書館』のアートワークにしても、デザインの領域から越境しているんだと思うんですよ。自分では気付かなくても、越境して、夢が自由に溢れている。最近は、誰もがヘマをしないよう、外すことを極度に恐れる世の中で、誰もが保守的になっているけど。そこを解き放っているよね。

森本  今はすごくラクです。プレゼンで負けても面白いし、勝っても面白い。いい加減なワケではなく、人にどう見られても恐くないですね。

桑原  気づかずに瞑想して、自分の感情を自由にセーブすることができているんですよ。多分。

森本  ですかねぇ。

桑原  今日の感想は「無意識な人」だなって。もはやエライお坊さんの領域。

森本  このあいだ、浄土真宗のお寺で講演をしてきました。

桑原  あははは、お坊さんにもできないことをしている人だもん。それは頼まれるよね。ちなみに、これまで生きてきた中で一番のミラクルって何ですか?

森本  いっぱいありますけど、一番は結婚かな。結婚は、かなり変化球でやってきましたね。ある時期、一度会社がダメになりかけて、自信も無くして…。私は落ち込んでいたんです。そんな私を見かねて、お父さんが誠実なマネージャーを紹介してくれて。その人とは、出張帰りの空港で待ち合わせたんですけど、そのときに何故か、その方がぶさいくな犬を連れてたんですよ。

桑原  ほぉ。

森本  初めてましてで、緊張しているのに、その犬が気になっちゃって。ブルドックだと思ったら、「チワワです」って言われてびっくりして。でも、どうやら捨てられた犬で、その方が一時的に保護していたみたいなんですね。そんなときに「良かったら、飼いませんか?」と言われて。まぁ、会社が傾いたり、落ち込むことがなかったらこの犬に出会うことはなかったわけで。そういうモヤモヤと引き換えに、その犬をもらって楽しく過ごしてたんです。でも、独身でペットを飼うと結婚できないとか言うじゃないですか。

桑原  そんな言い伝えがあるの?

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http://www.shipsmag.jp/2017spring/article/432


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森本千絵 Chie Morimoto
株式会社goen°主宰。コミュニケーションディレクター・アートディレクター。

武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科客員教授。1976 年青森県三沢市生まれ。1999年武蔵野美術大学卒業後、博報堂入社。オンワード樫山、Canon などの企業広告をはじめ、NHK 連続テレビ小説「てっぱん」のオープンニングタイトルや、松任谷由実、Mr.Children、などのミュージシャンのアートワーク、本の装丁、映画・舞台の美術や、動物園や保育園の空間ディレクションを手がけるなど活動は多岐に渡る。最近では、Mr.Children「ヒカリノアトリエ」、松任谷由実「宇宙図書館」、Right-onのイメージビジュアル・TVCM、KIRIN「一番搾り 若葉香るホップ」のデザインを担当(3/21 発売予定)。3/3 にオープンした南三陸志津川さんさん商店街ではサインデザインを手がけている。また、今年7/13 ~ 9/18 の期間、中島信也氏との共同企画展「森の中展」を鹿児島県霧島アートの森にて開催。
受賞歴:N.Y.ADC 賞、ONE SHOW、朝日広告賞、アジア太平洋広告祭、東京ADC 賞、JAGDA 新人賞、SPACE SHOWER MVA、50th ACC CM FESTIVAL ベストアートディレクション賞、日経ウーマンオブザイヤー2012、伊丹十三賞、日本建築学会賞、など。東日本大震災復興支援CM、サントリー「歌のリレー」でADC グランプリを初受賞。
著書:「GIONGO GITAIGO J゛ISHO」(ピエ・ブックス/ 2004 年)作品集「MORIMOTO CHIE Works 1999-2010 うたう作品集」(誠文堂新光社/ 2010 年)ビジネス本「アイデアが生まれる、一歩手前の大事な話」(サンマーク出版/ 2015 年)


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