THIS IS LOVE SONG issue 茂木健一郎×ユーミン×下條ユリ【後編】

茂木 最近アイスランドで面白い研究があるんですよ。昔から科学的には芸術が発達した理由は求愛だと言われてきたわけですよ。力がない男でもお金がない男でも、まあ、女でもそうだけど、優れた芸術ができると、うっとりさせちゃうことができる。鳥なんか、歌はまさに求愛だよね。それでより多くの子孫を残せるんじゃないかって言われてきたわけ。ところが、最近アイスランドの研究であったのは、芸術家の平均の子供の数を調べたら、普通の人より少ないの。だから、芸術は生き物として子供の数を多く残すとか、そういうこととは、ちょっと違う。

ユーミン 未来的なのかも。

茂木 今お母さん二人のマウスができてるんですよね。二母性マウスっていうんですけど。男は要らないんですよね、子供を作るという意味では。男はどうしたらいいんですかね……。まあそれは置いておいて。芸術っていうのは、生き物としてどうこうということは超えた何かだと思うんです。

下條 クジャクも男の人がきれいだったりするけどね。自然の世界では男はすごい存在感がある。でも、だから戦争だって起きてしまう。

桑原 でも、ラブソングを聞く、聞いて涙が出る、こういうことはこれからも残るんじゃないですかね。

茂木 そう願いたいですね。

ユーミン 「男やもめ」とか「未亡人」とか、「みなし子」とか、そういうワードは世界中に何語にもあるんだけど、子供をなくした親を指す言葉はないんだって。悲しすぎて。だから、戦争は絶対いけないんだと思うよ。夫を送り出すとかそういうことよりも、きっと子供を亡くすということがね、想像を絶する悲しみなんだと思う。今、普通の女性誌で憲法九条についての記事が載っていて、一番関心を持たれたりするんですよ。ヤングミセスにとって、芸能人のゴシップよりも関心事なわけじゃない。

下條 3・11のとき日本に帰ってきたときにユーミンのライブを見て、本当に涙が止まらなかったのは、個人的なことをすっとばして、本当に日本にユーミンがいてよかったなと思ったんです。ユーミンは言葉で戦争反対とは歌ってはいないけど、ユーミンが人々に与える希望っていうのが、自分たちの日常に戻るというかそういうことを思い出させること。希望を与え続けるって、よっぽどすごいと思ったの。

ユーミン 3・11のときちょうどツアーをどうするかジャッジしなきゃいけないときで、現行通りやろうって。

下條 やっぱり自粛すべきことが多かった?

ユーミン いや。内容的には、不思議と後押しをするようなことをずっと淡々とやっていたの。抽象的にはね。でも、実際、経済の上に成り立っているのであって、リスクが問題になるじゃないですか。間を置いて様子を見て夏頃にリリースした方がいい、少し延期したほうがいい、という話も半々くらいで出たんです。でも、決まった通りにしました。普通に世の中は続いているという証明のひとつになることが大事だと思って。偉そうだけど、それが老舗ブランドのミッションだと思ったの。

下條 9・11のとき、私は目の前でその現場を見たんだけど、その後のアメリカの戦争反対のやり方と、日本人の戦争反対のやり方は違いました。違って当たり前なんですよね。キャラクターが違うから。NHKのアーカイブ見てると、日本人って、戦後みんなにこやかで辛い中でも悲観的じゃなかった。それって日本の強さなのかなあって。なかったことにするわけじゃないけど、見えない気で守られていて、また、自分も守っている。そして、人々の希望、日常、というところに恋があるのね。私自身、恋の良さを知って生きてきました。だけれども、私は絵描きなんですが、大変なときに作品って生まれるんですよ。

茂木 じゃあ、良い作品のために恋しなきゃ。

下條 良い作品のためには哀愁も必要なんですよ。

ユーミン だからね、失恋している状態が一番クリエイティブなの。

下條 そうそう! でも、初恋と失恋、どっちかな? 演歌とかブルースって失恋でできてるようなものじゃない?

ユーミン でもね、恋をするってことが本当は不幸な状態なのかもしれない。失恋のときって脳の状態はどんなふうになってるの?

茂木 まず拒否から始まる。現実の拒否。

ユーミン それは否定って意味?

茂木 そう。そこから段々と受け入れていくんです。失恋したという現実をね。

下條 現実の受け入れと同時に、自分の受け入れが大変ですよね。そこが一番大変。ハワイのカウンセラーがね、私の母代わりみたいな人なんですけど、パッチ・アダムス(アメリカの医師)の秘書だった人なんです。今は80歳過ぎているんですけど、その人から、失恋したときに、自分を責める人と相手を責める人がいたとして、怒りの方が脳のなかでシンプルで初期的な行動だと聞いたんです。だから、怒りになるならいいんだけどね、どっちにしても最終的に自分を責めることになるし、それに苛まれる時間が長い。私は。

茂木 いい人だね。自分を責める人の方が好きだな。

ユーミン 震災以降ね、音楽の力とか、言葉だけが勝手に一人歩きしていて、ユーミンはどうですかと言われることがあるのね。私は、バブリーなイメージを持たれることもあるよね。けど、それはさておき、そういう機会にやっていることを振り返ってみて、決して間違っていなかったなと思うの。それは、大輪のバラとかカサブランカが立派な花瓶に活けてあるよりも、野の花が牛乳パックにすっと入っている方が素敵と思えるような、マジック。惚れ薬、感性。それを音楽でできればいいわけなのよ。タルコフスキーの『ストーカー』とか、『惑星ソラリス』もそうだけど、表面的な見た目は極貧なんだけど頭の中はSMみたいな。ずっとやっていることはそういうことなので、震災以降もずれていないです。

下條 ユーミンが特殊なのは、私が住んでいたニューヨークって、成功する女性のアーティストは、女を捨てるか使うかどっちかが多い。周りを見てきてそう思う。ユーミンは絶滅危惧種的な、そういう部分のキャラクターがあって、それを貫いている。

ユーミン そう、そうなのよ。『YUMING BRAND』というベストアルバムを1974年に出したの。ブランドと言う言葉を使っているのは、のれんなの。のれんが大事なの。子供の頃は理不尽だと思っても、染みついちゃうもの。その場の感情よりもイメージを大事にするもの。その場の感情を出して自分に正直に生きるってのは美しい。美しいけどね、私は全然自分に正直に生きていない。イメージを大事にしていくの。70歳でがらがらがっしゃーんって壊れちゃうかもしれないけど。そしたらデカダンね。笑

下條 ユーミンの70歳って、聞いただけで艶っぽいね。国民の光になると思う。

ユーミン 本当に忘れられない何かがあったり、超えられない何かがあったときに、救いを求められたりするかもね。

下條 ユーミンは菩薩……なんだ。笑


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