アート ブックの出会いかた
アートブックは、装丁やレイアウト、紙質やインクにいたるまで、アーティストの描く世界観を指先から感じとるためのこだわりがつまっています。思わず触ってみたくなる、どうしても自分の本棚に置きたくなる、そんな一冊を本屋さんで見つけてみてください。
昨今は、空前の古着ブームですが、本も近年、国内外大手出版でも復刊という形を取っているものがとても多くなっています。新刊があまり出なくなった昨今、過去に目を向け、良かったものを掘り起こし、古き良きものの価値を見出すことがいかに大切かと考えます。
日本の出版社に、復刊ドットコムという、皆さまからお寄せいただいた復刊リクエストを元に「絶版・品切れ本」を復刊させる出版社があります。読書がサイトでリクエストし、一定数に達すると復刊が進められるというものです。去年から、復刊ドットコムさんと当店コンシェルジュの希望するものを復刊するという取り組みが開始され、私が自分の売り場に置きたい!という書籍を企画し、プロデュースさせていただいております。私が最初に復刊させてもらったのは永井博さんの作品集でした。
あともう1 冊、復刊ドットコムでもリクエスト数が多いものでしたが、今年1 月に都築響一さんの『着倒れ方丈記』を復刊させていただきました。こちらは、今は無き雑誌、流行通信の都築さんの連載が書籍化した作品集です。こちらも10 年前に発行され、絶版。都築さんが、1 つのブランドを沢山集めている人を撮影し、インタビューしたもので、ファストファッションに押されていたデザイナーブランドが復活している今こそ、また読み返したい1 冊でした。こちらは海外の方にも人気で、今では売り場に不可欠な作品集です。今後も、今この時代だからこそ読み返したいアート本を復刊していきたいと思っております。
リクエストがあれば、こっそり教えてください。
都内大型書店を経て、代官山 蔦屋書店のコンシェルジュとしてアート・ファッション分野を担当。さまざまな企画・展示に携わる。ここにしかないものを探して、日々の仕入れに努めている。
しかし近年、こういった写真集を入手しやすい価格で現代に蘇らせる「復刊」や「復刻」の動きが、国内外で見られるようになってきました。
高品質なアートブックを数多く世に送り出しているドイツのSteidl は、フランク『TheAmericans』(2008 年、図1)やブレッソンの『The Decisive Moment』(2015 年)などの復刊を手がけました。初版に忠実なデザインで写真集の価値をそのまま未来につなげていこうとする意志が感じられます。イギリスに本拠地を置くMack は、2010 年の設立と新進ながら、積極的に復刊に取り組む出版社のひとつ。深瀬昌久の代表作『鴉』(初版 1986 年、復刊 2017 年)やアレク・ソス『SLEEPING BY THE MISSISSIPPI』(初版 2004 年、復刊 2017 年)、『NIAGARA』(初版 2006 年、2018 年8 月復刊予定)を手がけます。また、ソスのこの2 冊を含む4 つの作品集をミニブックにしてひとつの箱に収めた『Gathered Leaves』(2015 年)は、元の写真集の文脈を再定義するような形での復刊としておもしろい試みでした。
図1: アメリカ版初版(左)とSteidl 版(右、帯付き)
日本でも2016 年に河出書房新社から、荒木経惟『センチメンタルな旅』が復刻されました。誰もが知る有名な写真集ですが、これまで全てを見られる機会がほとんどなかったオリジナル版全108 枚を完全収録。技術を凝らしてた印刷の再現も見どころの一冊になっています。また古書店の二手舎が、中平卓馬、多木浩二、森山大道らが参加したことでも知られる伝説の同人誌『PROVOKE』(創刊 1968 年)の完全復刻に挑んでいます(2018 年11 月刊行予定、図2)。創刊から50 年を迎え国内外で『PROVOKE』への関心が高まる中、この復刻によってまた一石が投じられることでしょう。時代ごとの写真の現代的な可能性を示してきた名作写真集たち。それらを復刊・復刻する取り組みは、写真文化を未来へとつなぐ役割をになっています。
図2: 第2 号には、帯も再現して付けられる
美学・美術史、服飾などを学んだ後、大型美術館のミュージアムショップで書籍の選定、調達を担当。2014 年2 月より代官山 蔦屋書店に勤務。アートに関わるあらゆる分野を関心領域としながら、コンシェルジュ業務に取り組んでいる