インタビュー リリー・フランキー

俳優・リリー・フランキーが話題だ。この夏、演劇『ストリッパー物語』でストリッパーのロクでなしのヒモを演じ、その一方で先頃公開された映画『そして父になる』では温かい家庭を営む電気店の主人を、また映画『凶悪』では凄惨な殺人鬼にして狡猾な不動産ブローカーをそれぞれ熱演。それら演技の振り幅は驚くほど大きい。  が、そもそもリリー・フランキーとは何者か。イラストやデザイン、文筆、作詞、作曲など多岐にわたって活躍。マルチタレントと語られることが多いが、彼の真の姿は常に軽妙な語り口で煙に巻かれている。故郷、日常、思想など断片から、彼自身に迫った。
Interviewer MOICHI KUWAHARA / Phortography MIRI MATSUFUJI

桑原茂一(以下、桑原)  この夏にリリーが出た芝居『ストリッパー物語』(作/つかこうへいの代表作。演出・脚本/三浦大輔)、素晴らしかったよ。負の快感とか、下降していく悦びとか、邪悪度がマキシマムでね。俺、つかこうへいってあのギトギト感が苦手でカスった程度だったけど、負の美学を演劇していたんだなって。

リリー・フランキー(以下、リリー)  つかさんの演劇って、僕も通過してなかったんです。だけど今回は三浦大輔がリミックスしたことで、「あれ、これってこういう話だった?」って思えて。自分自身にも響きましたね。

桑原  それにしてもあの多血症的なセリフはアドリブじゃなかったんだって?

リリー 一字一句変えてないですよ。

桑原  『料理王国』で連載してたコラム『架空の料理 空想の食卓』もそうだったけど、過剰に装飾的な文章を書くのを知ってるから、でも確かにあんなのアドリブじゃ普通でてこないよね。

リリー いま考えるとつかさんは独特の難解なセリフを大衆演劇にしたっていうのが発明だったんだなって思いますね。ストーリーで感動させるんじゃなくって、やっぱりエネルギーを与えていくんですよね。

桑原  『ストリッパー物語』をみて感動してさ。その後、リリーの故郷の北九州での公演まで追っかけてどうなるかも見たかったけど。

リリー つかさんの地元ですしね。いらっしゃったら、腐った寿司の店とかいかれたバーを案内しましたよ(笑)。

桑原  同じ芝居でも、自分の故郷だと違うものなの?

リリー どうですかね(笑)。親戚のおばちゃんとか来て、きょとんとして見てますよ。みんなの中には、まず絵を書いてた子ってイメージがあって、次に妹(リリーの母)の本を書いてた子。で、今度はこの子、何をやってるのかしらって(笑)。

桑原  みんな観に来るんだね。

リリー 親戚のおばちゃんが10人くらいと、ウチのおとんの彼女の周辺と…自分の関係で30人来ますね。もう、楽屋裏が騒々しい(笑)。

桑原  それはちょっと参加してみたかったな(笑)。

文化とは本来、9.11でビルに飛行機が突っ込んでも、 誰かが笑いにして批判的にみなきゃいけない

桑原  それにしてもリリーとはつきあいが長いよね。『ブルーフィルム』(桑原が1993年から95年にかけて、「性」をテーマにプロデュースしたCDシリーズ。リリーも脚本その他で参加)の頃からだからもう20年でしょ。で、その後、それまでの俺が知ってるのとは違うリリーに出会ったのが『東京タワー』で。あれは文芸誌で連載してたんだよね。

リリー 『en-taxi』です。

桑原 連載3、4回目あたりから送ってもらって、もう毎号、ぼろぼろ泣きながら読んでね。「あー、リリーってこういう人だったんだな」って。いつもエロ話とかくだらない話を一緒にする人だったから、あまりのギャップに驚いちゃって(笑)。

リリー 前に宮沢(章夫)さんと細野(晴臣)さんと一緒にイベントをやりましたよね(2003年にラフォーレ原宿で行われたイベント『トークディクショナリー』。細野、宮沢、リリーがそれぞれの笑える素材を持ち込み『笑いとは何か』の鼎談が行われた)。

桑原 あれは面白かったね。リリーは曲を持ってきてくれてたんだけどその選曲が抜群で、ドッカンドッカン会場が沸いてさ。宮沢くんは本を読んだんだよね。

リリー それぞれの笑いのツボが全員違うのが面白くて。細野さんとか極めすぎて、パントマイムの人が地下に下りていくみたいな、笑いを何十周もしたようなもので大爆笑しちゃって(笑)

桑原 そんなリリーだったけど、俺は『東京タワー』で驚かされてこないだの『ストリッパー物語』でまたひっくり返っちゃった。それから『そして父になる』(監督/是枝裕和。共演/福山雅治。カンヌ映画祭で審査員賞を受賞した)を観て。あれも素晴らしくいい映画でさ。画面に出て来た時、また俺の知らないリリーが出てるんだけど、後半になると今度は「あれ、リリーって高倉健になってない?」くらいの存在感があって。

リリー そんな重厚ですかね(笑)。

桑原 そして次に公開されるのが『凶悪』(監督/白石和彌。共演/山田孝之、ピエール瀧)でしょ。あれも素晴らしかったね。きっといろんなインタビューを受けるんだろうけどさ。フリーペーパーとして25年もやってる『Dictionary』でも、リリーのことを聞かせてもらえたらって。

リリー 照れくさいですね。

自由であるべき社会から逸脱しかけている気がする

桑原 いや、いまってすごく特殊な時代に俺たちはいるからさ。もう我々自身が世間の凶悪なことに麻痺しちゃってるからね。もはや普通の感覚では時代を受け止めることもできなくなってるというか。

リリー 俺が大学生を卒業した頃ってバブルの真っ只中で。そのときの学生の就職したい会社のトップが「東京海上火災保険」や「野村証券」だったんです。学生たちも一山あてて大金持ちになろうなんて意識があったけど、いまの若い世代は最もなりたいのが公務員で当時とはまったく違う感性なんですね。俺らは、『スネークマンショー』を聞いて、バブルを体験したからバカバカしいものにも免疫があるけど、いまみたく学生たちが堅実さとか社会とかそういうものを真に受けるようになると、俺らが普段、書いてるラジオや雑誌のバカバカしいコントも不謹慎にしか聞こえなくなる。そういう意味で感覚の溝が出来始めてる気はしますね。

桑原 うん。確かに。

リリー それこそ文化って本来は9.11でビルに飛行機が突っ込んだとしても、それを誰かは笑いにして批判的にみなきゃいけないと思うんです。でも笑いにすることをとがめる人間が表現を抑圧して、画一化しようとするのは一番笑えない環境だと思う。

桑原 いやーな感じが随所に表れてるよね。変なおじさんを殺しても平気なヤツがいるわけでしょ。

リリー なんか隊列を乱す人間を省いていこうみたいな、戦中に近いムードを感じるというか。少しでも自分たちの物言いに反する者はつるしあげていくというか。本来、自由であるべき社会から逸脱しかけている気がしますね。

桑原 『そして父になる』と『凶悪』って、善と悪じゃないけど、両極にある映画にもみえるじゃない。でもそれが同じ人間の中にあるものなんだって言いたくなるくらい、いまってもう分裂しないと生きていけない社会のような気がするんだよね。

リリー 『そして父になる』も大体、僕のいる電気屋の家庭がいい家庭でいいお父さんで、福山くんがダメなお父さんって思われがちだけど、でもほとんどの親が目指してるのは、福山くんの家庭じゃないですか。いい教育を与えて豊かな生活をして、親子ともエリートでって。

桑原 確かにね。

リリー 『凶悪』だって実話の映画化ですからね。ああやって一人の記者が告発しなければ、殺人を犯した先生はずっといたわけじゃないですか。日本は警察がしっかりしてるから、人を殺したら2週間もしないうちに見つかるって思ってたんだけど、それは大間違いなんだなって。あんなふうに雑に人を殺してものうのうとしてる人がいっぱいいて。本当、自分たちも日本は治安がいいんだなってのを勘違いしてたんだなって。

桑原 そういう一番、デカいやつが震災や原発っていう巨大なやつだよね。

リリー いろんな安全神話が崩壊してますよね。


フリーダム・ディクショナリー
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