アート ブックの出会いかた
インターネット通販や電子書籍の普及によって、本を取り巻く環境が多様になっている昨今。しかし、私たちが日々扱うアートブックは、装丁やレイアウト、紙質やインクにいたるまで、アーティストの描く世界観を指先から感じとるためのこだわりがつまっています。思わず触ってみたくなる、どうしても自分の本棚に置きたくなる、そんな本はまだまだリアル書店にはたくさんあるはず。そこで、アートと本が好きだということ以外まったく異なる背景を持つ私たち二人が、自分にとって無くてはならないアートブックをご紹介します。読んだ方の大切な一冊を見つけるためのヒントになれば幸いです。
『羽永光利 一〇〇〇』
企画・監修:羽永光利プロジェクト実行委員会
価格:本体3,700 円(税別)
発行:一〇〇〇BUNKO
『宇川直宏 一〇〇〇』
著者:宇川直宏
価格:本体3,700 円(税別)
発行:一〇〇〇BUNKO
*リニューアル後の価格です
企画・監修:羽永光利プロジェクト実行委員会
価格:本体3,700 円(税別)
発行:一〇〇〇BUNKO
『宇川直宏 一〇〇〇』
著者:宇川直宏
価格:本体3,700 円(税別)
発行:一〇〇〇BUNKO
*リニューアル後の価格です
昨年(2017 年)のぼくのベストブックのひとつにもなった『羽永光利 一〇〇〇』。文庫本と同じ判型なのに、まるで事典のような分厚さが大きなインパクトを放つ一〇〇〇BUNKO シリーズの最新刊です。
この本は、写真家・羽永光利氏が1950 年代後半から80 年代という社会的/芸術的に大きな激動が起こっていた時代に残した10 万点にも及ぶ膨大な写真をアーカイブするプロジェクトの中で生まれました。被写体となったのは、学生運動、公害問題、前衛芸術、演劇、舞踏など、社会の”陰”となる部分。
全共闘世代の両親を持つぼく自身の関心とも重なります。そしてここ数年、写真に登場する象徴的な方々が次々と逝去され、ラジカルなひとつの時代が「歴史」になっていく様を目の当たりにしている実感が高まる中での待望の書籍化でした。膨大なアーカイブを膨大なまま見せるという点で、内容とデザインが高い水準で結びついた好例だと思います。
この本は、写真家・羽永光利氏が1950 年代後半から80 年代という社会的/芸術的に大きな激動が起こっていた時代に残した10 万点にも及ぶ膨大な写真をアーカイブするプロジェクトの中で生まれました。被写体となったのは、学生運動、公害問題、前衛芸術、演劇、舞踏など、社会の”陰”となる部分。
全共闘世代の両親を持つぼく自身の関心とも重なります。そしてここ数年、写真に登場する象徴的な方々が次々と逝去され、ラジカルなひとつの時代が「歴史」になっていく様を目の当たりにしている実感が高まる中での待望の書籍化でした。膨大なアーカイブを膨大なまま見せるという点で、内容とデザインが高い水準で結びついた好例だと思います。
それから、蔦屋書店で働き始めて最初に買ったのが、その時出たばかりの『宇川直宏 一〇〇〇』。宇川氏があらゆる時代やジャンルの著名人を自らに「憑依」させ描いた「偽サイン」が約
1000 点収録されています。
宇川氏はこの「偽サイン」に継続的に取り組んでおり、山本現代で2014 年に開催された個展ではその数が1000 点に達したといいます。(壁一面の「偽サイン」は圧巻でした!)その集大成として作られたのがこの本。宇川氏の「1000 点」の作品が一〇〇〇BUNKO の「1000 ページ」に収まったことはまさに見事な巡り合わせで、これは持っておくべきだと確信した一冊でした。
1000 点収録されています。
宇川氏はこの「偽サイン」に継続的に取り組んでおり、山本現代で2014 年に開催された個展ではその数が1000 点に達したといいます。(壁一面の「偽サイン」は圧巻でした!)その集大成として作られたのがこの本。宇川氏の「1000 点」の作品が一〇〇〇BUNKO の「1000 ページ」に収まったことはまさに見事な巡り合わせで、これは持っておくべきだと確信した一冊でした。
さてこのシリーズ、実は電子版もあるのですが(この分厚さが何冊もタブレットに収まってしま
うのはなんて便利!)、しかし敬愛すべきデザイナーの矜持は指先からこそ伝わってくるというもの。『羽永光利 一〇〇〇』の刊行にあわせて、それ以前のシリーズもリニューアルされました。
装丁のグラフィックの他、紙にも変更があったそう。触って比べてみると、リニューアル後は紙がやや柔らかくなり、めくりやすくなっていることがわかります。そういったデザインによる「本を読む」経験の更新と、羽永氏の膨大な写真や宇川氏の1000 点の偽サインが紙という質量に落とし込まれた情報量そのものの手触りに、なんとしても持っていたいというアートブックの引力を強く感じます。
うのはなんて便利!)、しかし敬愛すべきデザイナーの矜持は指先からこそ伝わってくるというもの。『羽永光利 一〇〇〇』の刊行にあわせて、それ以前のシリーズもリニューアルされました。
装丁のグラフィックの他、紙にも変更があったそう。触って比べてみると、リニューアル後は紙がやや柔らかくなり、めくりやすくなっていることがわかります。そういったデザインによる「本を読む」経験の更新と、羽永氏の膨大な写真や宇川氏の1000 点の偽サインが紙という質量に落とし込まれた情報量そのものの手触りに、なんとしても持っていたいというアートブックの引力を強く感じます。
渡辺淳 代官山 蔦屋書店 アートコンシェルジュ
美学・美術史、服飾などを学んだ後、大型美術館のミュージアムショップで書籍の選定、調達を担当。2014 年2 月より代官山 蔦屋書店に勤務。アートに関わるあらゆる分野を関心領域としながら、コンシェルジュ業務に取り組んでいる
美学・美術史、服飾などを学んだ後、大型美術館のミュージアムショップで書籍の選定、調達を担当。2014 年2 月より代官山 蔦屋書店に勤務。アートに関わるあらゆる分野を関心領域としながら、コンシェルジュ業務に取り組んでいる
『ブラック アンド ブルー』
著者:根本敬
価格:本体3,980 円(税別)
発行・発売:東京キララ社
著者:根本敬
価格:本体3,980 円(税別)
発行・発売:東京キララ社
根本敬『ブラックアンドブルー』(東京キララ社)
言わずと知れた<でもやるんだよ>。
私がこの言葉を知ったのは、今はもう無いヴィレッジヴァンガードM’s 店で働いていた時だ。そこは、岩井俊二監督の『四月物語』のロケ地で(その当時はみしま書店)TOKYO NO.1 SOUL SET、電気グルーヴやスチャダラパー、岡崎京子さんや、岩井俊二など多様なお洒落なものに囲まれていたかった千葉の田舎者らしい90 年代の終わりを迎えていた。そして『四月物語』を観て、初めて行ったヴィレッジヴァンガード。
とてもかっこいい雰囲気にすぐ働きたいと思った。ちょうどアルバイト募集の貼り紙も貼ってあった。その当時は男性のみだったのだが、それでも働きたいと頼んでアルバイトとして雇ってもらった。そして出会ったのが面陳してあった松尾スズキさんの『永遠の10 分遅刻』と根本敬さんの『因果鉄道の旅』だった。
そういえば、いろんなところで<でもやるんだよ>って聞くけど、これか!!と思った。以前より、<でもやるんだよ>という言葉になんか意味が出た。そして今でもその精神で生活している。その後、そのまま書店員という仕事をして、一回OL などもやってみたが、また今書店員をしている。そして、念願の根本敬のほぼ初めてに近い画集が今目の前にあり、自分の働いている売り場に置かせていただけることが幸せだ。書店員をやっててよかった。しかも、序文は最近『着倒れ方丈記』の復刊でもお世話になった大好きな都築響一さんだ。
私は、はっきり言ってしまうとアートフロアに居ながら、アートのことが好きだが、ファッションとサブカルチャー的なものの担当なのでアートがよくわからない。でも、アート作品集でも、写真集でも、自分の中で<くるもの>と<こないもの>がある。それはきっと何も意味がなくて、ただ自分に<キテる>ものだ。わからなくてもそれでいい、むしろその感覚が大事!くらいに思って折り合いをつけている。一応これでもリーダーなのだ。なので、この連載では私のようなアートって小難しいし、美術館とか一応行くけど全然理解できない、でもそれでも好きだなと思っている方になんか<くる>ような作品集を紹介していこうと思います。
さて、前置きが長かったのですが、この『ブラックアンドブルー』は文筆、映像、デザイン、講演、出版プロデュース、DJ など多岐にわたり活動されている特殊漫画家の根本敬さんが名盤と呼ばれるレコードジャケット作品165 枚を根本敬さんの解釈で描いた豪華な作品集。アートのわからない私でも、オリジナルのジャケットは見たことのあるものばかり。これがアーティストの解釈で描くと、こうなっちゃうんだ!と、とてもわかり易いアートの入門書と解釈しても良いのではないかと思う。
私が特に好きなのは、プライマル・スクリームのジャケット。あの赤と青のなんか生物がいるジャケットってもうそれ以外にしか見えないと思っていたが根本敬さんの解釈だと、大変にまた奇妙でちょっと吐きそうな酔いがありながらも、かなりキテるものになっている。根本敬さんだとアート的にキテるのか、別にキテるのかわからなくなるが、それがアートなのかもしれない。
言わずと知れた<でもやるんだよ>。
私がこの言葉を知ったのは、今はもう無いヴィレッジヴァンガードM’s 店で働いていた時だ。そこは、岩井俊二監督の『四月物語』のロケ地で(その当時はみしま書店)TOKYO NO.1 SOUL SET、電気グルーヴやスチャダラパー、岡崎京子さんや、岩井俊二など多様なお洒落なものに囲まれていたかった千葉の田舎者らしい90 年代の終わりを迎えていた。そして『四月物語』を観て、初めて行ったヴィレッジヴァンガード。
とてもかっこいい雰囲気にすぐ働きたいと思った。ちょうどアルバイト募集の貼り紙も貼ってあった。その当時は男性のみだったのだが、それでも働きたいと頼んでアルバイトとして雇ってもらった。そして出会ったのが面陳してあった松尾スズキさんの『永遠の10 分遅刻』と根本敬さんの『因果鉄道の旅』だった。
そういえば、いろんなところで<でもやるんだよ>って聞くけど、これか!!と思った。以前より、<でもやるんだよ>という言葉になんか意味が出た。そして今でもその精神で生活している。その後、そのまま書店員という仕事をして、一回OL などもやってみたが、また今書店員をしている。そして、念願の根本敬のほぼ初めてに近い画集が今目の前にあり、自分の働いている売り場に置かせていただけることが幸せだ。書店員をやっててよかった。しかも、序文は最近『着倒れ方丈記』の復刊でもお世話になった大好きな都築響一さんだ。
私は、はっきり言ってしまうとアートフロアに居ながら、アートのことが好きだが、ファッションとサブカルチャー的なものの担当なのでアートがよくわからない。でも、アート作品集でも、写真集でも、自分の中で<くるもの>と<こないもの>がある。それはきっと何も意味がなくて、ただ自分に<キテる>ものだ。わからなくてもそれでいい、むしろその感覚が大事!くらいに思って折り合いをつけている。一応これでもリーダーなのだ。なので、この連載では私のようなアートって小難しいし、美術館とか一応行くけど全然理解できない、でもそれでも好きだなと思っている方になんか<くる>ような作品集を紹介していこうと思います。
さて、前置きが長かったのですが、この『ブラックアンドブルー』は文筆、映像、デザイン、講演、出版プロデュース、DJ など多岐にわたり活動されている特殊漫画家の根本敬さんが名盤と呼ばれるレコードジャケット作品165 枚を根本敬さんの解釈で描いた豪華な作品集。アートのわからない私でも、オリジナルのジャケットは見たことのあるものばかり。これがアーティストの解釈で描くと、こうなっちゃうんだ!と、とてもわかり易いアートの入門書と解釈しても良いのではないかと思う。
私が特に好きなのは、プライマル・スクリームのジャケット。あの赤と青のなんか生物がいるジャケットってもうそれ以外にしか見えないと思っていたが根本敬さんの解釈だと、大変にまた奇妙でちょっと吐きそうな酔いがありながらも、かなりキテるものになっている。根本敬さんだとアート的にキテるのか、別にキテるのかわからなくなるが、それがアートなのかもしれない。
江川賀奈予 代官山 蔦屋書店 アートコンシェルジュ
都内大型書店を経て、代官山 蔦屋書店のコンシェルジュとしてアート・ファッション分野を担当。さまざまな企画・展示に携わる。ここにしかないものを探して、日々の仕入れに努めている。
都内大型書店を経て、代官山 蔦屋書店のコンシェルジュとしてアート・ファッション分野を担当。さまざまな企画・展示に携わる。ここにしかないものを探して、日々の仕入れに努めている。