「コザ」にてひねる
思い返せば全て成り行きだ。「なぜこの街でソーセージ屋を」と問われたならその回答は用意出来ているけれど、それはきっと嘘なのだo「欧米文化と食肉の伝統根強いこの街で、新たな風を吹かせたい。」さして回答者にその自覚はない。
「この街」とは沖縄市の中心地、通称「コザ」と呼ばれる地域を指していて、僕は1年前、そのメインストリートに加工肉専門店「TESIO(テシオ)」をオープンした。米軍基地の玄関から伸びる500mほどの通りは「ゲート通り」と呼ばれ、米軍関係者に対するサービスを中心に発展して来た社交の街だ。週末の夜は怪しく瞬く「アマゾネス」のネオン。フィリピン国籍のポールダンサーが路上で煙草をくゆらせ談笑し、ジャークチキンの焼ける匂いが路上に漂う。夜の乱痴気どもが寝静まった通りは割れた酒瓶が散り、空か白むにつれてガラスの欠片が陽を受けて輝く。人の気配かなりを潜める頃、TESIOのシャッターは上がる。
二階は叔父が営むライブハウス。隣はクラブだ。どちらも日中営業しておらず、製造に際して音を出そうと煙をまき散らそうとトラブルがない点でここは都合が良い。開業の動機を問われるにあたり、合理性を伴った誰の腑にも落ちつく回答は一見聞こえが良いけれど、そんなやり取りの大抵は本当の事を語り尽くしてはいないように思える。
人生を、自身を主役に据えた映画に見立てた時に、鑑賞に値するドラマに仕立てたいという想いがあるOこう言ってしまうと身も蓋もないが、ソーセージ屋としての日々もこの街で営むことも、その時々を楽しんだ結果ついてきたことであって、目が覚めてから床に就くまで、いつだって僕は不思議の国に迷い込んだアリスさながらに、先々巻き起こる事件と刺激的な出逢いに期待して胸をときめかせている。
その舞台としてアナーキーなこの街はまさにうってつけで、「コザで腸詰を捻る日々」を選択した僕のドラマは幸い退屈と縁遠く、合理性を飛び越えて日常を煌めかせている。
嶺井大地
県内の飲食店で勤務後、静岡県の老舗にて食肉加工技術を学ぶ。2017年6月、沖縄市コザにて自家製ハム・ソーセージ専門店「TESIO(テシオ)」をオープン。《沖縄市中央1-10-3》
http://tesio.okinawa/