「情報」を 「行動」する ための ガソリンにする 津田 大介
@ 代官山ティーンズ・クリエイティブ アートスクールの講義から
編集:神宮司博基/デザイン:内山望
皆さんこんにちは。僕も、いろんな講演をしています、例えば「情報の読み解き方」などをテーマにしたり、最近では学生さん向けの講演が増えています。コンピュータの専門学校や、自分が行っていた小学校で話したり。そこで話すことで大体共通しているのは、「いま時代って結構、変わっていっているよね」ということです。例えば、政治的なことに目を向ければアメリカでは大方の予想を裏切ってトランプ大統領が誕生しました。情報をめぐる環境もすごく変化していますし、僕らの周りの社会はすごい勢いで変化しています。そうした変化の過渡期にいる。でも、そういう時って実はチャンスもたくさん眠っているんですよね。今日はそうした変化していく社会の中で、溺れずに生き残っていくにはどうすれば良いのかということを、「情報」を「行動」するためのガソリンにするというテーマで、お話し出来れば良いかなと思います。
近い未来、今ある仕事の半分がロボットに取って代わる?
はじめに社会の中で仕事をめぐる状況がどう変わっていくのかを見てみましょう。まずある技術が生まれます。そうしてある技術が生まれて広まっていくと、それまで人間がやっていた仕事はその技術で大体出来るようになって代わっていく、ロボットが人間の仕事を代替出来るようになるんですね。そうなると、その仕事をもう人間がやる必要がなくなって、その結果その仕事や職業自体が世の中から消えていく。それで、代わりに新しい職業が出てくる。こういうサイクルというのがあらゆる業界で、色々な時に起こってくるということなんですね。
1999 年 新宿駅 切符もぎり→自動改札機
1955 年 電話交換手→機械化により消滅
DPE 現像ショップ→デジカメ
一つ、衝撃的な話をします。言っているのは僕ではなくて、イギリスの研究所と野村総研が出した調査なんですが、この先10 年か20 年の間に、今ある職業の半分くらいは大体ロボットに職を奪われる可能性が高いんです。皆さんはいま学生さんだとしたら、この後社会人になってこれから仕事につくわけですが、皆さんがなりたいと思ってる職業の半分くらいは大体ロボットに職を奪われるかもしれないということが調査でわかっています。これはどういうことなのか、結構色々な職業がなくなるんです。リストを見てみるといろいろな人気の職業があります。
空港の職員→自動チェックイン機
料理人→料理ロボット
建築家→3D プリンタ& 建築のデータ
新聞配達員→新聞のデータ配信でなくなる?
配達員→一部地域(離島などで)ドローン
運転手→自動運転
測量士→3D スキャナー& ドローン(福島第一原発ではすでに実用化)
ヘアメイクアップアーティスト→全自動の機械(すでに実用化されている)
https://www.nri.com/jp/news/2015/151202_1.aspx
あらゆる仕事で、機械化による自動化が進んでいくわけですね。ここまではいわゆるブルーカラー-人間がどっちかっていうと体を使ってやること、それが機械化されていくという話です。これに対して知的労働-ホワイトカラーは大丈夫なんじゃないの?と思う人もいるかもしれません。ですが、むしろ知的労働のホワイトカラーの方が実は危ないのです。
具体的にはプログラマーです。今安倍政権が教育で、小学生からプログラミングを教えた方がいいんじゃないかとプログラマーを成長戦略に組み込んだんですけど、プログラマーはやばいです。プログラマーは、ロボットや人工知能とすごく相性がいいんですね。さらにIT 業界でもっとも高いのは人件費なんです。人工知能を使って人件費を削減できれば、当然企業にしてみれば利益が拡大する、そして人工知能はご飯も睡眠もいらず、ずっと働くし、病気にもならない。それだったら人工知能にやらしちゃえ、という風になっていくのは当然のことですね。実際すでにプログラミングの自動化とか、ソースの自動生成というのはもう始まってるんです。だから、こういうプログラミングの業界に人工知能が導入される抵抗感も少ない。いずれ、プログラマーという職業は、なくなっていくと言われています。
ジャーナリスト→人工知能で速報記事などの生成(すでにリオオリンピックで実用化)
株ディーラー→人工知能(すでに日本では30万人いたディーラーは7万人に)
小説家→人工知能(すでに文学賞の一次選考突破)
変化の激しい海の中で、溺れずに生き残るために「変わる」こと
こういう変化の激しい海の中で、溺れずに生き残っていかなければならない、そういう時代です。だけれども、実はそこで生き残っていくやり方っていうのがあるんじゃないかなと思います。
そのヒントを考えてみましょう。伊勢神宮の「式年遷宮」というのがあります。伊勢神宮が1300年前からやっている、20年に一回、上物を壊して、全部作り直すことです。中にある保存されているものとか、中身自体は変えない。伊勢神宮自体は2000 年くらい前から同じ場所にあるらしいんですが、1300 年前からこの式年遷宮というのをやっています。
これは日本人の不思議な特徴なんですけど、日本って、実は継続させることがすごく得意な国なんですよね。世界で創業200 年以上の企業は、大体5600 くらいあるんですが、そのうち3300、なんと半分以上が日本の企業です。それは例えばよく見る、創業寛永~年とか和菓子屋さんや旅館だったりします。さらに世界で一番古い企業体って何かというと、これは日本の「金剛組」という宮大工の会社なんです。その会社の創業は578 年頃なので、飛鳥時代から続いています。現在の日本に飛鳥時代の会社が未だに残っている。でもその秘密って実はこの、「変わる」ことで続いていく、伊勢神宮の「式年遷宮」にヒントがあるんじゃないか。
私たちが持続可能性、サステナビリティっていうことを考える際、良いものならばそれが「ずっと変わらない」ことだと思いがちなんですけど、本当は全く逆なんですよね。実は、太く長く愛されている存在ほど、常に時代に合わせて、「変化」し続けている。
例えばカップヌードルだって、昔子供の頃我々は「謎肉」っていうのを食べていました。なんなんだろうこの肉?うまいけど謎だよね、というのも最近はちゃんとした角チャーシューに置き換わった。そんな風に変わっていっている。「ど定番」の商品こそ、実は時代に合わせてすごく細かく味を変えているんですよね。少しづつ変わってるから気づかないだけで、時代に合わせているんです。
それは実はこういうことで、持続していく可能性・サステナビリティっていうのは「時代に合わせて人々の好みに合わせて変わり続ける」っていうこと、それが非常に重要だということですね。
「情報」を元に「行動」してみる、そうやって「わかる」、「変わる」
そうやって変わっていくにはどうしたらいいのか。『バカの壁』で有名な養老孟司さんは、「『わかる』ことは『変わる』こと」だと言っています。自分というのは常に学びながら変化するもので、だからこそ「本当の自分」なんていうのは自分の中に存在しているのではない。自分というものは、色々なことを学んで、変化していく過程で、少しずつ、積み重なっていくことで出てくるものであるんだと。だから「自分探し」なんてやっても無駄です。意味がないんです。学んでいくことで「自分」を作っていきましょう。
ここで重要なことは、知識や情報っていうのはただ単に本を読んだりネットを見て、知っただけでは意味がないんだということです。「情報」は使って初めて意味が出る。だから、学びによって得た知識や情報を土台として、自分の「行動」を変えてみましょう。つまり「行動」してみましょうということです。実はそれによって初めて、その知識や情報っていうのを「わかる」ことができる。情報を知って、行動してみて、自分が「変わる」。「変わる」ことによって、それが「わかる」ようになる。
これはですね、楽器を演奏したり、スポーツをやってる人は理解できる感覚だと思います。サッカーをしているメッシのプレーをずっと見ていて、メッシのようになれるかというと、なれませんよね。だって、それは見てるだけだから。見てから、自分でサッカーをやってみて初めて、ああ、簡単そうに見えるけどこんなに複雑なことをやっているんだということが体験的にわかる。
それで、自分でそういう風にやってみてわかることで、自分は変わっていく。そうやって変わったことによって「自分」というのが生まれていくのです。メッシのプレーという「情報」を元に、自分でやってみて「行動」してみるとわかったりする。「情報」は、「変わる」ための材料として非常に重要なんです。だから「情報」というのは自分というエンジンが「行動」し続ける、変わり続けるためのガソリンなんだっていうのが、今日言いたいことでもあるわけですね。
これからやってくる少子高齢化社会で、「人間にしかできないこと」を探そう
これからの社会、なんといっても日本が抱えている一番大きな問題は「少子高齢化社会」です。つまりは、後期高齢者の人がいて、高齢者の人がいて、我々のような中年や若者がいて子供がいる。上から徐々にどんどん人が少なくなっていってるわけです。このままだったら日本は縮小していくしかない。
そして、下の世代、つまり皆さん若者世代の方が、こういう上の人たちを支えていかないといけない。年金とかも払った金額よりも絶対もらえないし、ものすごく負担が下の世代に押し付けられてしまうわけですね。だからすごく大変な時代です。このままいったら日本は大変なんですけど、でもそれを実は救済するかもしれないのが、最初の方で話してきたテクノロジーでもあるんですね。
どういうことか。先ほどからロボットと人工知能の話ばかりしてきましたが、それは働ける人が足りなくなってくるのが、その代わりってロボットが補えるじゃんっていうことです。そして知的労働の部分は人工知能が補える。だから人自体は少なくなってくるけれども、ロボットと人工知能がこういう形で社会全体を補うことによって、減少していく国力を補うことが出来るんじゃないか。だから、ロボットや人工知能に任せられることは、任せてその代わりに、人間は人間にしかできないことをやりましょうということです。これからはそういう社会になっていくんですね。
皆さんに伝えたいのはそういうことです。つまり、ここに来て下さってる皆さんが意識しなきゃいけないことです。これからの若いひとたちは、ロボットや人工知能では、代替不可能な、人間にしかできないことを見つけなければいけません。これは是非意識して帰ってください。じゃあ、「人間にしか出来ないこと」ってどういうことなんでしょう。
最初の方でプログラマーという職業はなくなると言いました。その可能性はちゃんとした研究機関が調査して出しています。48.1%くらいの結構高い確率で、プログラマーという職業は20 年後にはないのです。その頃にはプログラミングはもう全部機械で自動化されると言われています。ところが、ソフトウェアの開発の指針を立てたり、アプリを設計する仕事である、ソフトウェアエンジニアが20 年後になくなる可能性は4.2%。つまり、ほぼ生き残ります。20 年後にはプログラマーは半分の確率でいなくなっているけれど、ソフトウェアエンジニアは、96%近くの確率で残る。
プログラマーとソフトウェアエンジニアは何が違うんだろう?と考えてみると、結局お客さんがユーザーですよね。ユーザーは人間です。ソフトウェアエンジニアは、人間の立場に立って、設計とか、仕組みを決めていきます。これはAI では出来ないですよね。つまり、機械で代替出来ないんです。
「人間にしか出来ないこと」のために覚えておくべきこと、4つ
さてさて、これからAI とか、ロボットの社会になっていく中で、結局なくならない仕事ってなんなのか、人間にしかできないことってなんなんでしょう。一つは、今日ここのクリエイティブスクール、代官山ティーンズ・クリエイティブとすごく関わっています。実は、「クリエイティブ」なこと、0 から1 を作ることは、ロボットには出来ません。機械は何かを効率化することはできる。しかし何もないところから何かを創造するということは、機械には難しいんですね。だからこそクリエイティブなことは人間がAI に対してすごく優位性がある部分です。
二つ目が、「コミュニケーション」です。つまり顧客とか、取引先との複雑な交渉は機械には出来ない。人間的なコミュニケーションの中からでしか、人は信用しない、だからこそこうしたコミュニケーションが必要な複雑な交渉は機械では出来ない。
そして三つ目。「意思決定」ですね。要するに人工知能は可能性というのを提示したりとか分析したりとかは出来るんですけど、その情報を元に数ある選択肢が出た際に、どれを取るかというような、直感に基づいた意思決定は出来ない。もしくはリーダーシップを取って部下を率いるということは機械には出来ないわけですね。これも人間がやらないといけないことです。
最後に、「起業」です。そもそも、機械は起業しようとは思えないわけです。これらは全部0から1を作ることと言えばそうなわけですが、何かこれから自分で切り開いていこうとして、そして責任を取って何かを決めるということは、機械には出来ないことなんです。だからこれら4つを覚えておいてください。これらは、これからどれだけAI が発達しても、人間がやらなくてはいけないことです。
質の良い「情報」を得るために、それぞれの「メディア」の信頼度を見極める
以上を踏まえた上で、ではどのように人にしか出来ないような「クリエイティブ」なことが出来るか考えてみましょう。「クリエイティブ」なことをやるときにはその「行動」のガソリンとなるための、質の良い「情報」を入れるということが大事です。そのためには「情報」を得る手段である「メディア」を読み解く力というのが求められるわけですけど、メディアといってもそれぞれで、結構色々と性格が変わります。
例えば新聞社だと、情報を作る手間暇のコストがネットとは全然違います。新聞社のスタッフは、例えば朝日新聞が4600 人くらいいます。読売も同じくらいいます。どちらも記者の数が2000人ほどいるんですね。それくらいの人数で、新聞というものが出来ている。テレビ局は大体、NHK では1万人以上の局員がいます。出版社も、大きなところだったら大体1000 人くらいはいるわけです。ラジオはそんなに多くないですが、でもそれなりにメディアの企業というのは、手間暇とお金と、大量の人員によって「情報」を出しています。
具体的に、それがどう「情報」の質に影響してくるんでしょうか。「校閲」って仕事、みなさんご存知ですか。校閲は、情報が正しいかどうかを、全部調べて、それを指摘するという仕事です。情報が世の中に出て行く前の、チェックをする重要な役どころですね。出版社や新聞社には校閲部っていうのがあって、精密に事実関係をチェックするための専任の人がいます。もちろん担当編集部も見るし、編集者、編集長も見ますが、校閲部というしっかりしたチェックが複数入ってから、世の中に出ているわけですね。だから間違いが少ない。我々が新聞とか雑誌で読んでいる「情報」というのは、このようにものすごくコストをかけられて世の中に出て来ています。意外とこれって知らないですよね、完成系の物しか我々の手元には出てこないから、こんなプロセスを経て世の中に出ているなんてほとんどの人は知らない。
一方でネットメディアってどうか考えてみます。例えばハフィントン・ポストはスタッフは10 人ほどしかいません。バズフィードジャパン、スタッフ、記者の人は50 人くらいです、記者だけで2000 人いるような会社とは全然違います。そして、もちろん複数のチェックはあるでしょうけど、校閲という部署はありません。さらにSNS になるとどうでしょう。Twitter って、校閲しますか、しませんよね。僕もたまに間違った情報を流して炎上したりもします。でもTwitter ってそういうメディアですから、しょうがないところもある。Facebook もそう、Google もそう、まとめサイトとかもそうですね。このように「情報」と言っても、ネットメディアで流れてくる情報と、出版社で校閲を経てきている情報っていうのに信頼度に差があるというのは当然な話なわけです。
それぞれのメディアの持つ情報の特徴が、難しいかわかりやすいか、信頼度があるかないかで見ると、新聞は信頼度は高い。その代わり新聞って毎日読んでないと非常にわかりにくかったりする。匿名掲示板とかまとめサイトはわかりやすいけど、情報の信頼度は低い。だから最初からそれぞれのメディアの情報はこういう特徴があるとある程度自分でわかった上で、その情報に接するということが結構重要な態度になってくるわけです。
「メディアリテラシー」を鍛えて、「情報」を見極める
そうやって流れている「情報」を見極めるために求められるのが、「メディアリテラシー」です。「リテラシー」というのは、読み書き能力のことを言いますが、その意味でのリテラシーは日本人は世界で最高に高いです。要するにみんなが読み書きが出来る。文字が読めない人は日本ではほとんどいません、99.9%の識字率です。アメリカとかヨーロッパでこんな高いところはないです。話せることは話せるけど、文字は読めないし書けないという人が結構いるんです。
日本というのはそういう意味では識字率・リテラシーは非常に高い国なんだけれど、情報を読み解く力の「メディアリテラシー」が低いんですよね。「メディアリテラシー」というのは、メディアの特質というのを理解した上で情報の意図を読み取って、メディアとして発信出来る能力のことを言うわけです。
よく「メディアリテラシー」を説明するときに、それはだまし絵のようなものだという話をします。これは黒いところに注目すると、二人の人間が向かい合って、見ているように見えますが、白いところに注目すると盃ですよね。どっちにも見ることができる。もう一つも有名なだまし絵です。若い女性と、老婆、注目する場所によって、どちらにも見ることが出来る。実はメディアリテラシーというのは、どこに注目をするのかっていうことで、全く見えてくるものが違うことを知ることです。これが「メディアリテラシー」です。
こんな風刺絵もあります。ぱっと見ると、左のひとが右のひとに襲われて殺されそうになっているところなんだけれども、視点をテレビカメラである一点だけクローズアップすると、左のひとが右のひとを襲っているように見える。こうした特徴を持つものが「メディア」であるということです。ある一点だけに注目してそこだけ切り取って放送することによって、真実は歪められてしまう。
「検索ワード」 から見えてくる世界
このように、「メディアリテラシー」にはいろんな観点があるんですね、我々がどのように何を認識しているのか、google で検索するとよくわかります。例えばもしひらがなで「ふくしま」と検索した結果、いい感じのゆるキャラが出てきたり、観光名所の桜がでてきたりして、柔らかいイメージで、震災からも復旧していい感じだよね、という感じに見える。
ところが、検索ワードを変えてローマ字の「fukushima」で検索してみると、こんな風になります。原発事故や、放射能が流出していくというような画像が出てきます。つまり海外の人が福島の今の現状を検索すると、こういう状況ばかりを見ることになるというわけですね。これは海外の方が原発関連の報道記事が多いからです。そうすると、海外から福島のことを検索してみると、とても人が住めるような状況には思えません。これに対して、「いや、ひどいな、福島だってだいぶ回復したよ、そんな風に思うのは偏見だし偏ってるんじゃないの」と日本人からしたら言いたくなるのはわかるんだけれども、我々も同じことをしていますよね。チェルノブイリ、スリーマイルと言われた時に、何を思い出すかと言われれば、原発事故ですから。それ以外の情報はわからない。だから我々は、チェルノブイリやスリーマイルに関しては、偏った認識しか持っていないんです。本当はもっと多様な情報があるんだけど、でも、インターネットというメディアで検索すると、このように出てくる。
さっきのだまし絵のようなもので、実は我々は同じような物を見ていて、同じような認識であると思っているけれども、実は結構見ているものは違うんです。これは良い悪いではなくて、私たちは「メディア」というものがこのようなものであるということを認識しておく必要がある、ということです。
「メディア」に映らない「情報」は何か。-トランプの写真を見抜く
では、「メディア」に騙されないためにはどうしたらいいのか。下村健一さんというフリーのアナウンサーの人がすごくいい本を出しています。『10 代からの情報キャッチボール入門』には、こう書かれています。
「まず何か情報がtwitter やfacebook で流れてきても、結論を即断するのをやめましょう」と言うこと。まず初耳の情報に対しては、特にネットで流れてきた情報はまず怪しいかもしれないと思いましょう。もう一つ、その情報が記者やレポーターによる事実なのか、意見なのか、印象なのか見分けて、これを仕分けして整理しましょう。
そして、他の見え方がないか探してみる。別の情報とか、立場を入れ替えてみて考えてみる。さっきの福島の例がわかりやすいですね。そしてもう一つ、その情報に「隠れているもの」がないかを意識しましょう。切り取られた情報じゃないのかと、集約された情報の周辺を見るようにしましょうということです。
例えば実はこんな画像があります。アメリカの大統領選の、トランプの集会を写したものなんですが、こうやってみると、トランプって、白人がほとんど支持しているのかなと思ったら、結構黒人の人がいるし、ヒスパニックとかもいる、マイノリティとかも意外と支持してるんだなという風に思うわけですね。
なんだけども、これのカラクリをアメリカのテレビ業界でずっと取材している人から教えてもらいました。トランプの場合、支持者なら誰でも集会に入れるんですが、基本的には白人しか来ません。しかしちょっとだけ、数人~数十人の黒人とかヒスパニックの人が来るんですね。そうすると受付の人が、あなた方は、ここの席に行ってくださいと言って、一番の「特等席」に案内するというんです、そこはトランプの演台の真正面で、その真正面にはプレス席があるわけです。そこで集会の写真を撮ると、その席の真ん前に集中的にこうした人たちが映るようになるんです。
だからこうやって部分だけを切り取るとトランプはすごく色んな人に支持されているように見える。でも、これって、何の捏造もしてないんですよ。デマもやっていないし、何の情報を歪めてもいないんだけど、切り取る角度を計算してそれをやった結果、事実とは違ったメッセージが発信されていくんです。
つまりさっき見たあの風刺絵と同じです、「メディア」って言うのは倫理に反することをやらなくたって、こういう風にメッセージを操作できちゃうわけですよね。マスコミの人はこのプレス席から撮影してください、その前に黒人の人を案内する、というだけ。だから常に「情報」というのは、何かの意図があるんじゃないかと疑うことを身につけないといけませんよ、ということですね。
「情報」をとにかく見抜く目を見につけましょうということです。見抜くためにはあらゆる情報に溺れないためにやっぱり必要なものがある。ここからちょっと精神論っぽい話になりますが、ある部分では具体的な話です。たくさんある「情報」に溺れないように何が必要なんでしょうか。
「楽しい仕事」をするために「夢」を持つということ
それはやっぱり、「夢を持つ」ということが大事であろうと、僕は思います。どういうことか。サッカーの本田圭佑選手はこんなことを言っています。小学生に向けて講演した時のことです。「まず皆さんに伝えたいことが3つあります。一つは、夢を持ちましょうということ。もう一つは、夢について忘れないで、毎日夢について考えて生活する、そして最後の一つは、夢を決してあきらめないことです。」
この、「夢を持つ」っていうことには実はいろいろあるというか、色々なレベルでの夢の持ち方がある。本田さんのようにセリエA で活躍して日本代表のように活躍するというのは本当に難しいです。実現するのはまず難しい。けれども、たとえプロサッカー選手になる夢が潰れたとしても、実は夢の実現の仕方には色々あるわけです。プロサッカー選手になれなくても社会人のサッカー選手になったりとか、憧れているチームのスタッフになるという夢もある。メディカルスタッフや球団経営のスタッフになったりとかですね、そういうチームを支えるという形で、好きな人たちの後押しをするというのだって、それでサッカーを仕事にしたいという「夢」は叶うかもしれない。
何なら、そういう球団に関わらなくても、サッカーっていうのはこういう魅力があるんだと伝えるようなライターやジャーナリストになるというやり方でもいいかもしれない、それでなくても、別にサポーターでいることでもいいかもしれない。色々な夢の叶え方がある。
実は「夢」っていうのは、色々な広がりがあるっていうことを、これから仕事を選んでいくときに皆さんは意識をしたほうがいいです。
そしてまたこれから働くときに、「働く」というのは、大体二つあります。すごくざっくりした仕事ですけど、「楽しくない仕事」と、「楽しい仕事」です。一つは「楽しくない仕事」ですが、それは人から嫌嫌やらされる仕事です。もう一つは自分から進んでやりたい「楽しい仕事」。世の中には、究極的にはこの二つしかないです。
でも、「楽しい仕事」をするためには「夢」っていうのが結構重要で、何か自分が実現したい、やりたい、っていうような「夢」がないと、この自分からやりたい楽しい仕事っていうのが見つからない。だからこそ夢を持つ必要がある。逆に言えば、夢があれば、楽しい仕事をして、毎日暮らせるようになるような、その第一歩につながるんです。
だから皆さん夢を持ちましょうっていう話なんですけれど、「じゃあ、そもそも夢を持つにはどうしたらいいんでしょうか、叶えるにはどうしたらいいんでしょうか?」と、よく聞かれます。それにはやっぱり「努力」。 ̶しかし、努力って聞くと辛いですよね、できれば僕もしたくないです。だけど、好きなことっていうのは、寝食を忘れてでも出来ることがあるんですね。だから「努力」ということも、もしそれが好きなことをやっているならば、確かに大変だけど、辛くはないわけです。だからそういう努力が出来るような「本当に好きなもの」を探すっていうのが一番大事になってきます。
あとはやっぱり「勉強」っていうのが大事で、「勉強」っていうのは、何かについて自分で能力をつけて、どんどん情報を得て、自分の持っていた情報を変えるための手段ですから、つまり自分の行動を変えていく方法でもある。それは、世界を変えられるような手段とも言える。
そして「理想」と「現実」が、世の中には一杯ありますけど、自分はこうなりたい、こういう風に世の中を変えたいとか、こんなことを実現できたらいいなという自分の「理想」と、一方でそれはなかなか難しいという「現実」があります。でもその両方を知ることが、これから何かを実現していくときに重要で、それを知ることで、では今の自分に足りないものは何だろう?ということを学ぶことが出来る。そういう時に「勉強」というのが結構役に立つんです。
夢を実現させるために、助けて
くれるもの3つ
その時にですね、3つ、あなたを助けてくれるものがあります。一つは“本”、もう一つは“人”、そしてもう一つは“体験”です。
“本”というものは、夢を実現するための手段とか、現実を教えてくれます。そして、“人”は自分が夢をどんどん口に出すことで、いろんな人と出会うことが出来る、そうして助けになってくれる。そして最後に“体験”によって「夢」を実現するイメージが出来る。
もちろん、ネットを見るのもいいですけど、本や人、体験から学べることを知った方が良いです。やっぱりネットにはない、しかも色々な人が校閲なんかも含めて信頼できる情報を作っているのが本、新聞です。もちろん新聞も書かれていないこと沢山ありますよ、そしてネットも全部否定するわけではありません。
ネットは速報や、あるいは新聞とかではしがらみで伝えられないようなことは伝えられるかもしれない。でも、信頼度は低い。ネットの情報にはどう接すればいいですか、と聞かれた時に僕はよく言っています。話半分というか、友達とかで、あいつの話面白いんだけど、なんかいつも話を盛るんだよなっていう友達がいるかと思いますけど、だいたいそれぐらいの信用度で考えればいいです。 面白いけど、話は盛られているかもしれない、というぐらいの距離感で接すると、ネットの情報は上手く使うことが出来る。そう考えると、やっぱり本とか、人から聞いた方が良い情報を得ることが出来ます。
「夢」を持つために、「好きなこと」から探してみる
以上のような「情報」を使って自分の持つ「夢」を叶えていけばいいということですけど、それでもやっぱり「夢」自体が見つからないというケースもあるかもしれません。そういう人はですね、それは自分の「好きなこと」の近くにあるからまずは「好きなこと」を探してみましょう。まず一番大事なことは「好きなこと」を見つけることだということです。
そして、これからはすごく流動性が高い時代なのでどんな風に世の中変わるかわからない。だから好きなことは一つじゃなくて、出来れば多いほうが良いです。5個とか10 個とか、とにかく、趣味があるという人は、趣味を10 個ぐらい増やしましょう。それぐらいあったほうが良いです。その上で、好きなことでも仕事になりやすいものと、仕事になりにくいものがあるので、自分が好きなことを仕事にするにはどうしたらいいか?っていうことを考えてみる。
これは大事なところです、でも、そうは言っても「夢」ってそんな簡単に見つかるもんじゃないですよね。実際僕も大学で教えてるので大学生と話すこと多いんですけど、「やりたいことがないんですよね」、っていう学生がすごく多いです。でもそういう人には、「やりたいことないんだったら、とりあえず働けば」と言っています。「でも、出来るだけ、自分の好きなものに近いところで働きなさい」とも言います、それで、30 歳、40 歳までに見つかればいいじゃんという話なんですね。
だから夢がいますぐ見つからなくてもいいです。やりたいこともいますぐ見つかってなくてもいいです。だって大人になっても見つかってない人の方が多いわけです。でも見つからないからって、焦っちゃう人がいる。そんなに焦る必要はないです。働きながら見つけていけばいい。
実際僕もそうでした。自分の夢ってなんだったんだろうと考えてみると、なんか漠然とモノを書いて暮らしたいなと思ってはいたけれど、それも最初、小学校二年生で作文が評価されたんですよ。中学三年生でも作文が評価されて、「俺、結構行けんじゃね」って、勘違いをして、高校で新聞部に入った。それで新聞とかを出していたわけですね。その後も書くことを仕事にして、色々なことをやっている内に、「あ、これが夢なんだな、情報を人に伝えていくことが自分が一生やっていく仕事なんだ」って気付いたのが36 とかそれぐらいの時です。それも結局いろんな仕事をやっていく中で、「やっぱりこれがやりたい」ということは36 歳の時に見つかったので、別に皆さんもそんなに焦る必要はないと思います。
まとめ – 「夢」を叶えるために、「情報」をガソリンにして、「行動」してみる
今日の話をまとめます。皆さんが、憧れている仕事は、20 年後には無くなっているかもしれません。だからこそ今から自分が好きなことを増やしていくっていうことは重要です。
そして、働き始める時に、好きなことを仕事にできなくても大丈夫です。大丈夫、というか、そんな一番最初に就職する時に好きなことを仕事に出来る人なんて多分、10%もいません。下手すれば1%とかそういう世界だと思います。だからそれは、後々になってから実現していくんですね。もしくは働いている中で今やっていることがすごく好きになっていくかもしれない。だから、そこで焦る必要はないです。
もう一つ、今が良い時代になっているのは、もう日本の会社も変わってきてるので、副業が出来ます。そしてネットがあります。だからそれによって時間とか場所とかを超えていろいろなことが土日に出来ます。皆さん仕事はしながら、やりたいことは余ってる時間で副業でやればいいんです。会社によっては副業をOK にしている、こんな仕事をやってますよと上司に伝えたら、例えば昼はサラリーマンだけど、夜はカメラマンとして働ける、そんな人だっていたりもします。そのままそれが仕事になっていく、本業になっていく人だっています。そんな試行錯誤も不可能ではない。
そしてまた、「他人」っていうのは自分のこと見てないようでいて意外と見てくれている。だから、もし何かをやりたいと思ったら、何かのきっかけを作るためにも、「こんなことやりたいんですよね」って口に出して人に言っておくようにしましょう。これが結構大事であるっていうことです。
最後に、最近話題になった、アドラー心理学、『嫌われる勇気』っていうのがありましたね。そこにも書いてあることなんですけど、夢がそれでも見つからないっていうときに、じゃあ人生どう生きればいいのか。「他人のために生きる」というのがあります。自分はやりたいことは特にないけれど、でも何かやったときに他人が喜んでくれてうれしいという感情は、やっぱりお金では買えないものです。だからもし、やりたいがことないっていう人は、割り切ってみて、何か他人が喜んでくれること、他人のために生きようとしてみましょう。それで、結構人生が楽しくなりますよ。どうしてもやりたいことが見つからない時には他人のために生きる。それがいいんじゃないかっていうことですね。
「夢」を見つけたり、実現するには、「行動」しなくてはいけないわけですね。でも「行動」するためには、そのための武器が必要になる。その武器っていうものが、「情報」なんです。だからちゃんと質の高い「情報」っていうのを手に入れて、それを武器にして、「夢」を見つけて、実現するために「行動」をしましょう、これが今日の結論です。
最後に、この言葉を皆さんに送ります。
“未来を予測する最善の方法は、それを発明してしまうことだ”
アラン・ケイ
これもいろいろなところで引用されてすごく有名な言葉ですけど、アラン・ケイっていうコンピュータの父と呼ばれている人が言った言葉です。未来なんか予測しても意味ないよ、未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ、自分で作っちゃえばいいんだ、こんな未来にしたい、予測なんかするんじゃなくて、作りましょう、と。「夢」を持っていれば未来は変えられますから。だからそのために、皆さん、「情報」を使って「行動」しましょう。今日の話が皆さんのお役に立てば幸いです。
ご静聴ありがとうございました。
津田 大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。
1973 年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学文学学術院教授(2017 ~ 2019)。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。J-WAVE「JAM THE WORLD 」ナビゲーター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。株式会社ナターシャCo-Founder。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行っている。