インタビュー リリー・フランキー

俳優・リリー・フランキーが話題だ。この夏、演劇『ストリッパー物語』でストリッパーのロクでなしのヒモを演じ、その一方で先頃公開された映画『そして父になる』では温かい家庭を営む電気店の主人を、また映画『凶悪』では凄惨な殺人鬼にして狡猾な不動産ブローカーをそれぞれ熱演。それら演技の振り幅は驚くほど大きい。  が、そもそもリリー・フランキーとは何者か。イラストやデザイン、文筆、作詞、作曲など多岐にわたって活躍。マルチタレントと語られることが多いが、彼の真の姿は常に軽妙な語り口で煙に巻かれている。故郷、日常、思想など断片から、彼自身に迫った。
Interviewer MOICHI KUWAHARA / Phortography MIRI MATSUFUJI

未来って本当にふざけてるなと思います

桑原 あははは。それにしても俺の中でリリーは、ジャック・ニコルソンとかロバート・デ・ニーロとかと一緒でね。リリーって一本一本同じ人とは思えないような芝居をするじゃない。俺、前に何の映画出てたか全く思い出せない役者の存在感って、日本人には感じた経験がないんだけど、リリーには感じるんだよね。

リリー 光栄ですけど、俺、たくさん出てないから。見る人の記憶の中で平均化されないんじゃないですかね(笑)。そもそも本職の役者じゃないから得してることはいっぱあって。自分で、出る出ないを100%選んでるし、出たいって理由がお芝居をしにいくんじゃなくて、好きな監督がどういう仕事をしてるのか間近でみたいなってだけなんですよ。だから俺、単純に作品に出れるのが嬉しいんですよね。その上、橋口さんとか是枝さんみたいな人の映画に出てると賞にもかかりやすいですしね(笑)。

桑原 あははは。やっぱり観ることがプロだってことに反応するんだね。そういえばよく芸の肥やしとかいうけど、どう生きたかってのは次の作品にも表れると思うけどどうなの?

リリー 芝居だけじゃなく最近は文章もそうかもしれないけど、年をとればとるほど自我が薄くなってくるとは思いますね。

桑原 なるほど。

リリー 作品に対しては、ま、もとに戻っちゃうんですけど、より献身できるようになったというか。これをやって自分がどう思われようかとかはまったく思わなくなった。

桑原 小説やエッセイを書く時はどうなの?

リリー 映画に出るのは、他人の作品にお手伝いでいってるって感覚で、無の状態でいくんです。でも文章を書いたり、音楽のプロデュースとか詞を書くとかは無にはなりきれない。自分の何かをそこに注入すると、噛み合わせの悪いものがでてくるというか。今はそんな段階ですね。

桑原 映画を観るプロって言ってたけど、自分が映画に入った時、共演する俳優さんたちのことも批評家として観るんじゃないの?

リリー そこがまた辛いとこで、俺、本当にあんな本出さなきゃよかったなって(笑)。あれ書いてるときには自分が映画に出るなんてまったく思ってなかったのに、その後、その本の中で批評してる人とかいっぱい仕事で会うことになるんですよ。未来って本当にふざけてるなって思いますよ。だってあれ書いてる時、「お前、いつかカンヌに行くぞ」って言っても誰も信じないじゃないですか。でもそういうふざけたことが起こるから…他人の悪口は言わないほうがいいですね(笑)。ま、批評であって悪口じゃないんですけど。

桑原 でも人を嫌いになるには覚悟がいるって、ビートたけしも言ってるじゃない(笑)。俺、たとえリリーがどれだけ辛辣に書いても、なんでこんなに愛されてるのかなって思うけど。誰かがリリーは敵がゼロだって言ってたし。

リリー いやいや。俺のこと嫌いな人はいっぱいますよ。

桑原 勝新(勝新太郎)だって、すごく愛されてるじゃないですか。同じですよね。いろいろあるのかもしれないけど存在がたまらんって言わせるというか。でも「東京タワー」からリリーの本を読んでると、ブルーシーツで寝るホームレスみたいな、あらゆる経験を人一倍してることが、結果として何か表現をするには大事だったという気がするね。結果としてこんな風に生きてこなければ、これはなかっただろうなって他者からは見えるわけでさ。

リリー こないだ誰かと話してたけど、俺20代のときにほぼホームレスみたいな生活してて、あの時はいやだったけど、当時考えてたことを形にしてるというのはありますね。あれを遊学というならそれもいいんですけど。

桑原 かっこいい~(笑)。

リリー いまホームレスになってないからあの時代のことはあれでいいと思うんですけど、それよりもっと人生で悔やまれることがあって。

桑原 どういうこと?

リリー 昔からの知り合いで絶対にセックスしててもいいはずなのにしてない女性がたくさんいることというか(笑)。この間、その中の一人と会ったんですよ。そいつも40すぎて、俺も50近くなったんですけど、いま思うのは、あの時やってても人生何も変わらなかっただろうなって(笑)。一体、何をこわがってセックスしなかったんだろうって、そのいくじのなさは感じたんですよね。

桑原 あははは。

リリー セックスは一発したくらいで人生変わりませんね。たぶん。「よかったー、あそこでしとかなくて」じゃなくて、していても変わんないでしょ、あれ。

桑原 でも、合う合わないはあるでしょ。

リリー それだって、しないと、わからないじゃないですか。

桑原 合うと愛情も生まれるよね、きっと(笑)。

リリー フランスの格言かな。「男と女はまず出会う、恋におちる、別れる、そして友達になる」ってあるんですけど。セックスをしないと友達にさえなれないわけで(笑)。

桑原 理屈で付き合う女性っていたの?

リリー でも若いときってそうじゃないですか。こういうワンピースが似合う子がいいなとか。でもいまそういうことを思わないじゃないですか。理屈同士で付き合うと結局、細胞同士が引っ掛け合わないじゃないですか。

桑原 あははは。

リリー 趣味が合うならそのほうがいいですけど、趣味があえばその分、またいろいろあるじゃないですか。みうらじゅんさんと飲んでたら「やっぱり趣味が合うのがいい。そうじゃないと仲良くなれない」って言うんですけど、「じゃあ、海洋堂の怪獣のフィギュアについて熱く語る人がいいですか」って聞いたんです。そしたら「そんなヤツがいたら俺、説教する、俺のほうがよく知ってるし」って。余計ケンカになっちゃいますよ(笑)。


フリーダム・ディクショナリー
オンラインストアはこちら