選曲家は、音楽家は、音楽ジャーナリストは、 今日の時代をどう見ているのか?

インタビュー構成・写真 桑原茂→  ページデザイン 小野英作

椎名 結局は、中間搾取がないシステムを作るしかないですかね。

沖野 ぼくの友だちはクラウドファンディングでアルバムの資金を確保して、そっから自分の取り分も抜いている。熱心なファンに「こんなデモ作りました。アルバムにしたいんで資金提供してください」っていうふうにしてますね。

椎名 そういう世界しかないんだよね。

沖野 手数料を抜かれますけどね。10%、20%と。

椎名 代理店と同じだね。

沖野 お金を募るっていうのは、ダイレクトでいいなと思う。先日の渋谷でのワールドピースフェスティバル、ぼくのコストは6万7千円だったんです。で、寄付で6万6千円戻ってきました。だから、千円しかかかってない。

椎名 素晴らしい。

沖野 千円でこれだけできるならいいかもって思いました。最初はやっぱり、このコスト、誰が出すのっていう話になってたんですよ。たとえ6万円でもみんな出したくない。俺が言いだしっぺなんで、やむなく俺が被ると言っていたんだけどね。結果的には、これ、ありかも、という感じです。今まで恥ずかしいという気持ちもあった。アーティストが投げ銭的をもらうってのは、ね。でもそういうフェーズに来ているかもしれない。

椎名 売れる音楽も終わりつつあるね。金になる音楽も終わっちゃうような段階。昔だったらコマーシャルの音楽が一定あって、それに対して、売れなさそうなアーティストがいて、売れるアーティストのおこぼれがあった。それすらも成り立たない。

沖野 違う業界の人が音楽に可能性を見い出す、というのはあります。最近話があったのは、音響機器メーカー。マイクやヘッドホンを扱っているゼンハイザーってメーカーがレーベルを始めるらしく、ブランディングのために世界でアーティストを見つけて契約しているらしいんですよ。彼らのスキームって、全世界で500店舗あるから1店舗10枚ずつ売っていくっていうものなんです。CDが1枚、海外だと1500円くらいでしょ。オーディオセットを値切られるよりもいいんです、一枚つけてあげても痛くもかゆくもない。さらにCDにDVDつけて、インタビューをドキュメンタリーみたいにして合体した映像を、セットで店舗で売る。売れなかったら、買ってくれた人へのおまけにしてでもいいから、店舗で買い取らせるんです、10枚。そんなやり方もあるのかって感心しますね。で、映像のなかにヘッドホンつけている姿とか、ボーカリストがマイク使っている場面を使えば、それでいいって言うんです。

椎名 メーカーが直接そういうふうに始めるんだね。

沖野 そうなんです。レコード会社じゃないところでそういう発想が生まれているのは、唯一の救いですね。だって、レコード会社は、売れているものを作るか、売れそうなものを作るか、売れているものの真似か。それしかできない。ゼンハイザーは高価なオーディオセットを扱っているので、割とハイエンド。チャラい音楽はないんですよ。ライブができる。ジャズ。ソウル。民族音楽。そういうのらしいです。こういうふうに音楽に可能性を見出していく人がいるってのが、まだちょっと救いかなあ。

椎名 メルセデスベンツも、ミックステープやってて。全然メジャーじゃない感じのことを、ちゃんとやってますからね。なんかやっぱり日本は鎖国してるのかなあ。トヨタがそういう感じのものをちゃんとやるっていうのは、考えられないわけで。どうしてもメジャー志向。それも同調圧力なのかな、平均、平均に走るね。

沖野 インターネットが普及して、いろんな情報に人はもっとアクセスするようになると思ったけど……。

椎名 みんな何してるんだろう?(笑)

沖野 情報がありすぎて探せないのかなとも思います。だから、とりあえずこの人が言うことだけチェックしておけばいいか、っていう感じですよね。まあ、それがまともな人ならいいですけどね。おかしな人だとねえ。

椎名 結構いますね。巧みに情報を撒いてくる人。

沖野 最終的に自分の本買えよ、みたいな。(笑)

椎名 いつもはすごくリベラルな人なのに、ネトウヨ系の記事にリンク貼っちゃったりしてね。ちゃんと見てないんだろうね。見出し一発で引っかかっちゃうとか。そういうのも多い。どうしてそういう考え方になったかとか、どういうことをしているか、割とみんな見ない。見出し主義というかね。最初に言ったことしか頭に残らない。後でそれが嘘だと分かっても、最初の見出しが最後まで残る。嘘でも、言っちゃった方が勝ち。

沖野 ひどいですよね。

椎名 検証されて否定されたとしても最初の嘘が生き残るっていう世界になっちゃっている。そんなのが次から次へと与えられる、続々と。どんどん押し寄せてくる。

沖野 ちょっと前まで上西議員って言ってたのに、今は武藤議員でしょ。次は誰なんだって。

椎名 落ち着いて考える時間がない。

沖野 安保法案のことも、自民党が選挙で勝った時からそうなるとみんな分かっていたはず。自民党の改憲案見たらこうなること分かっていた。あの時点で。確かに、震災のあと、民主党だめだから自民党だな、というタイミングが一回あったけど、その後の選挙って、何とかしないとやばいって分かっていたと思うんです。でも、それでも自民党の圧勝。あの時点で、ぼくは心折れているんですよ。

椎名 アベノミクス解散です、アベノミクス選挙です、って言った時点で、自民の勝ち、という雰囲気だったね。その頃は、町の声にしても、景気をよくしてほしいという内容ばっかり放送していた。

沖野 それに騙されている国民が悪いんじゃないでしょうか。洗脳されているというか。ちょっと考えれば分かるのに。僕の母はね、いまだに「テレビが嘘つくわけない」って言うんですよ。僕なんかその反動です。完全に。「いやいや、だってテレビ、嘘ばっかりやん」って言っても、母は言う。「あのね、テレビが嘘言ったら大問題になるでしょ」って。

椎名 『革命はテレビには映らない』という曲もあるんだけどね。(笑)
(脚注*The Revolution Will Not Be Televised/Gil Scott Heron)

沖野 ぼくは、母に無理やり共産党に票を入れさせるんです。ほっておいたら自民党になっちゃう。ぼくが一番懸念しているのはこういうことなんです――法案通りました、全部悪いのは安倍さんです。で、安倍さんが辞めたあとに、野田聖子とか小泉進次郎が出てきたら、また支持率がころっと変わって自民にいっちゃう――そういう仕組みです。その後、民主党をわざとぼろぼろにしてまた政権を奪還するところまで、シナリオが描かれていなんじゃないだろうか。地震もあのタイミングで起こった。

椎名 二回の大震災のとき、自民は下野してたからね、二回とも。だからまた自民党が下野したら、地震注意なんですよ。彼らは知ってるんですよ。

沖野 店やっているからぼくは若い子と接することがあって、こんなことがあったんです。あくまで一例ですが。女の子に「選挙行きなよ」というと「行きます」って。「えらいね」っていうと「当たり前じゃないですか、日本国民ですから。私、安倍さんに入れますよ。自民党に入れますよ」って。「えっ」って反応すると、「沖野さん。安倍さんだけですよ、韓国や中国にはっきりものを言えるのは」って言うんです。「え、でも戦争起こったらどうするの? 彼氏持って行かれちゃうよ」って言ったら、「当然、彼氏には戦争に行ってもらいます」とはっきり言うんです。「戦争で亡くなってしまったらどうするの」と言うと、「まだ若いから、新しい彼氏見つけます」って。えー!? それ、どうなん? って思って。いや、女の子も戦争に行かされるかもしれんし、それこそ従軍慰安婦に駆り出されるかもって言うと、「それはないでしょ」って。結局ね、自分の身に降りかかるとは思っていないんですよ。

椎名 みんなそうでしょ。

沖野 若い子が立ち上がるのはいいなと思うんです。でも、彼らが言うことやること全部OKみたいになってしまうのもどうかと。あと、法案を通って、対立軸がなくなってしまったとき、収束してしまって、やがて「そういえばSEALDsってのがいたよなあ」みたいになってほしくない。それこそ野田聖子女性総理誕生とかってなったら、全部持っていかれるような気がする。

椎名 安倍がやめろから、次の段階にいかなきゃいけない。安倍やめろにこだわりすぎだよね。

沖野 そうなんですよ。

椎名 安倍嫌いだけど、そういうことじゃないような気がする。ぼくも悪口いっぱい言っていますけどね。

沖野 もう辞めるでしょう。

椎名 あそこまでの人だし、改憲をやりたいんだろうけど、できないでしょう。法案通すまでだよね、長くても。

沖野 最近ぼこぼこにされているのも、誰かがゴーサイン出したんでしょ。

椎名 ある時点から、ああ、変わったなと思いました。憲法学者が「違憲だ」といったあの発言の、ちょっと前の段階でありました。

沖野 どんどん悪役にされていって、安倍さん辞めたから、OKって。

椎名 「俺らががんばったら退陣したんじゃん」って、そこにすり替えそうな気がする。

沖野 そのカタルシス怖いな。

椎名 そこを突き詰めなきゃいけないのが野党なんですね。

沖野 選挙協力しなきゃいけないんですよね。岩手の県知事選は?

椎名 あれは無投票です。あれ降りたから。

沖野 共産党は沖縄以外選挙区協力しないって。負けますよね。

椎名 あれはやめなきゃいけない。SEALDsの皆さん、共産党に言わなきゃ。安倍じゃなくて、次の段階の野党共闘ができるように、言わなきゃいけない。

沖野 代わりがいないと言われていますが。誰ですかね。細野とか枝野じゃないでしょ。人材不足がすごいね。

椎名 そう思うのも、結局はそう思わされているだけかもしれない。

沖野 憲法学者が立ち上がると言われていますね。あとは、古賀さんとかは、どうでしょう。

椎名 古賀さんは反原発だけど、TPP賛成だね。まあ、でもTPPは漂流し始めました。

沖野 あと、野党で言うと、辻元清美?

椎名 じゃないでしょ。まるく収まらないよね。

沖野 関西で大ブーイングですもん。

椎名 野党でいるかな? 首班指名を受けられそうな人。

沖野 鳥越俊太郎。がんにならなかったら政治家になれたのに、と思うんです。あといろいろ叩かれていますけれど、木内みどりの旦那。水野さんとかね。でも、ぼくらが人材いないと思っちゃダメですよね。

椎名 そうですね。

沖野 作らないと。SEALDsの奥田君もスターというか、リーダーに育ったんだからね。野党の中から探して、推していかないと。

椎名 この間、沖野さんが渋谷でやったフェスのときに、三宅洋平がシュプレヒコールやったじゃない。彼の声は枯れがれで、絶叫系だったけど、普通のシュプレヒコールより、全然いい声だった。それを聞いて思ったのは、シュプレヒコールって、今まで労働組合的なおばさんの声ばっかり聞いてて、古いなあ、ぼくらの時代と変わらないなあと思った。彼のシャウト系の音楽っぽいの聞くと、いいなあと思う。クリス・ペプラーじゃないけど、声がいい人とリズムがいい人ね。SEALDsもリズムがいいと言われてるけど、もっといいのがあるはず。音楽的なのをすれば、もっとアピールできる。ぼくらは労組系のおじさんおばさんのに飽き飽きした世代。

沖野 UAとか。

椎名 聞いてて気持ちいい呼びかけが聞きたいね。

沖野 あと、PUSHIMの演説というかアピールがすごくよかった。
聞こえてくる音が気持ちいい。声質の説得力ってあるね。

椎名 そこはもっとこだわったほうがいいね。この前、切に思いました。

桑原 さて、読者には、どういうリアクションをしてもらえばいいかな。

沖野 YouTubeのリンク3曲くらいあれば分かるね。1曲だと曲順とか分からないからね。3曲で表現してほしい。

桑原 テーマは、どうしましょう。

椎名 あんまりまじめな人は苦手。

桑原 『そこはかとない反戦選曲』は変えなくていい?

椎名 それ以上のものがあるなら、それ以外でもいい。

沖野 もっと強烈なものがあるなら、それでいい。

椎名 ここでお知らせ。選曲を公募します。テーマを決めて3曲選曲。
送り先は、この号の発行日にfree・paper・dictionaryのホームページに掲載します。ふるって応募ください。

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沖野修也
DJ 作曲家 執筆家 クリエイティブディレクター
今年1 月に自伝『職業、DJ、25 年』を発表。現在Kyoto Jazz Sextetのレコーディング中。

椎名謙介
1980年よりスネークマンショー等のラジオ番組制作で音楽関係のキャリアをスタート。1980年代にははフリーの選曲家としてラジオ番組や東京コレクションなどのファッションショーの選曲を手掛ける。1991年にはWAVEレーベル創設に参加。1995年以降は英国のレーベルPUSSYFOOTへの楽曲提供、GASBOYSのプロデュース、永山学氏と共同で立ち上げたレーベルEmigration Japanなどの活動を展開。2003年の「Blair Whitch and Bush of Ghost Project 」を最後に音楽シーンから遠ざかっていたが、2015年にはTYCOON TOSH & THE GHETTOBLASTERZに参加するなど再始動の構え。ヤン富田氏によるASLの創設来のメンバーでもある。


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