選曲家は、音楽家は、音楽ジャーナリストは、 今日の時代をどう見ているのか?

インタビュー構成・写真 桑原茂→  ページデザイン 小野英作

沖野修也 vs 椎名謙介

桑原 『そこはかとない反戦選曲』、Facebookも参加者が増えてきていていてね。

椎名 毎日新聞の夕刊にも載ってたね。

桑原 繋がっていくんだなあって思う。音楽を選ぶ「選曲家」って仕事があるとしたら、俺たちはみんな初代だよね。我々、初代でやれることってのが、あると思う。今だからこそ。デモと同じような気持ちで、選曲家が集まって音楽を選ぶことで自分たちの気持ちを表現する、という方法。こういうのがあるよ、ということを、表現したいと思っているんです。

沖野 「選曲家が」というくくりが面白いと思います。ミュージシャンとは、この前一緒にやったんです、8月12日に渋谷駅の駅前でワールドピースフェスティバルってのを。
そのとき、DJは、ぼくだけでした。現時点では、ぼくの周りでは、政府に対して声をあげるDJの話はあんまり聞かない。実際、「ミュージシャンは声を上げにくい」という話をよく聞きます。家族がいる、子どももいる、どんどんギャラが下がっていく。世の中のこととか、社会のことについて声を上げている暇はない。そんな状況ですよね。結局、日々食べていくのが大変だから。それならそれでもいいと思う部分もありつつね、でも、基本的なことだと思うんですよ、「人を殺したくない」とか「殺されたくない」という声を上げるということは。「その辺、みんなどう思ってる?」って聞いたら、「法律や政治のことを中途半端に発言してバッシングされるのが怖い」って言うの。「それで黙っちゃたら意見が言えないじゃん、勉強すればいいじゃん」っていうと「時間がない」と言う。あとね、久保田利伸さんがぽろっと政治的なことを言ったときにバッシングがあった。アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤君が政治的な発言したら、「がっかりしました」とファンの人から言われたり。佐々木俊尚さんというITジャーナリストは「ミュージシャンって反権力が格好いいと思ってるのでは?」みたいなことを言っていた。彼の最終的な見解は分かんないですけど、いずれにしても、「やっぱりミュージシャンって物が言いにくい環境なんだな」って感じたんです。そんななかで渋谷でイベントをやってみると、集まってくれた。AFRAとかPUSHIMとかShin02とか三宅洋平とか。すごくよかった。でもね、ぼくとしては、そのとき、DJとか選曲家が来なかったのが、ちょっと残念だったんです。茂一さんからのお話は、演奏家じゃなくて、選曲家がメッセージを送るというもの。面白いと思います。曲を選び、選んだ曲にメッセージを託し、デモでもなく、コンサート形式でもない、DJパーティを、というアイディア。

桑原 たとえば野音とかがいいかな。クラブのなかでやってしまうと届かないよね。ファンドについても、こういう使い方は誰もやっていないならやってみたい。みんなの一票が何かを動かすっていう具体的な形だからね。自分の始まりは湾岸戦争の頃かな。阪神淡路大震災、9・11と、フリー・ペーパーのなすべきこと?を考えてきた。阪神淡路大震災の時は神戸の長田にあるコミュニティーFM・FMYYで「神戸ワン・ラブ」って小さな媒体だけど現地取材の番組を始めて。手弁当で俺が取材して番組作って、みんなに配ってっていうのを、2年くらいやった。でも、3・11までは、「ミュージシャンは音楽作るだけで十分、政治的なことに関与する必要はないと思っています」って、それが大方の意識だった。でさ、3・11のときは、逆に「なんで寄付集めるイベントしないの?」って言われたの。集めたお金を、どこに渡すか、どう渡すか、そのあと誰が責任をとって報告するのか。そこが大変なんだけどピンときていない。いち早くそういうイベントをやっている自分を見せたいっていう感じなのかな。

椎名 ロックが保守のほうになっちゃったんだね。60年代70年代は反体制そのものだった。パンクもそうだったよね。そのあとに、産業化が進んじゃって、プロダクションもがんじがらめになって、知らないうちにドメスティックなマーケットになっていった。内側に、内側に、鎖国みたいになっちゃって。一方、海外のミュージシャンは政治的発言をしている。良い悪いは別にしてね。日本の場合、音楽がドメスティックになるにしたがって鎖国的になっちゃった。事務所が、レコード会社が、とか言って。誰がするともなく自粛しちゃう同調圧力と自主規制ね。あとね、ぼくが問題と思うのは、秘密保護法の問題とか個人情報の問題とか出てきたときに、まあマイナンバーのことでもいいけど、そういう悪法に対して、「何もやましいことしてないんだし、反対する理由ないじゃん」っていう人いますよね。それって想像力の欠如。相手方がころっと変われば、いつでも悪用されるし、自分が目をつけられる可能性があるって、考えが及ばない。そういう空気は怖いと思うんです。

桑原 それは戦後、経済優先とその教育プロパガンダが成功しているからね。

椎名 ぼくらの学校時代って、そんなにねえ……。そんな感じでもなかった気がするなあ。

桑原 ああ、そうだね。椎名の周りはどうだったの?

椎名 ぼくらの周りには学生運動の最後の最後の新左翼の運動の消えかけがいた。そんな時代です。

桑原 何年頃?

椎名 80年代のちょっと前。

桑原 その時代まで、そういう組織、残っていたんだ。

椎名 いたよ。面白い人たちだった。

桑原 それは大きな組織の下部組織?

椎名 いや、いろんなのがいた。高校のときの同級生が、本当に最後の最後、どん尻を担っていて、成田闘争で捕まったりしていた。その頃は成田が開港前だったから。でも、俺らは戦後教育を完全に受けていたわけだし、特にそれに流されたことはないと思っているし。なんだろな。生き方だよね。どういう意志をもって生きているかというだけで。

桑原 どんなに小さな針の穴でもいいから、そこに穴があるという認識を持ってもらう必要がある気がする。で、この対談は沖野君が椎名に会いたかったという話から。で、それは椎名の情報源、ルーツがどこにあるかに興味があるんじゃないかな。

沖野 ほんと、椎名さんの情報源どこなの?

桑原 どこなの?(笑)

椎名 なんだろうな、勘? 勘かな。ぼくのおばあちゃんは結構保守的な人だったんだけど、警官のことを絶対「おまわりさん」と呼ばなかった人なの。

桑原 え、どういうこと?

椎名 「おまわり」と呼んでたの。

桑原 どして?

椎名 たぶん、おまわりは全部年下だったから。一同笑

椎名 だけど、新左翼の友だちがいた頃に、公安がうちに来たんだけど、おばあちゃんがぼくの留守中に追い払ってくれた。おまえ、おまわりが今日来たよって。追い払っておいたぞって。

桑原 昔の人の感覚では、国民たちのために働いてくれている人なんだから、国民は上から目線で見てもいい、という感じでしょ。

椎名 そうそう、官憲にこびへつらうことはないって。そういう祖母に育てられた口なんで。

桑原 それはいい話。

椎名 そういう精神、態度がしみついているのかもしれない。

桑原 おばあちゃんは戦争のことは何って言ってるの? 大東亜戦争で負けたことに対して。

椎名 うちは横浜大空襲の余り弾を捨てていく辺りに家があって、ぼくが小学校のときに焼夷弾の錆びたものがいっぱい縁の下にありました。一応焼け残ってね。まあ、別にぼくは特別なソースがあるわけじゃないし、密通者がいるわけじゃない。ぼくは、世の中の表に出ている情報と自分の考え方、ウェブで検索する情報、それらを併せて、もう一段上を考える。そうすると、情報はいろいろつながるんです。

桑原 アメリカに渡った最後の侍なんて言われているどこかの教授が突然なんだか脚光浴びたりしているでしょ、Facebookかなんかで。坂本龍馬がどんな人間だかみんな知らない。あの武器弾薬は誰からお金をもらって買ったと思ってるんだ、真実を誰もわかっていない――みたいな内容をぶち上げて。それで、2980円のところ、無料でいいから読めって、自分の書いた本を推している(笑)。そういう情報をどう見極めるかって、すごく大事。誰だって面白そうだから読んでみようという気になるものかもしれないからね。

椎名 でも、そんな怪しい人の本を読まなくても、普通に史実としてあちこちで描かれていることだよね。

桑原 まあねえ。でもさ、みんないまだにそういうところで「およよ」と思って迷ったりしている。

沖野 坂本龍馬はスターだとガチガチに思っている。

桑原 坂本龍馬のことを悪く言うやつが世の中にいるとは思っていないんだよね、みんな。

椎名 いわゆる司馬遼太郎史観だね。NHKが大河ドラマで洗脳してきた、マインドコントロール。その結果だね。

沖野 テレビを信じないけれどネット情報丸呑みの人もいる。ネットも、自分の都合に合わせた情報を誰かが撒いている可能性あるからね。自分で判断しないと。疑ってもいないし、自分でも考えていないし、って人が結構多い。あとね、もう一個、怖いと感じることがあるんです。信用する人を盲目的に信じる人がいるってことです。ぼくは山本太郎君を支持していますけど、でも、彼が言っていることが全部正しいかは、検証しないといけないと思っている。DJやってて何が良かったかと言うと、マイルス・デイビスでも、ぼく、全部OKじゃないんです。曲なんです。曲のひとつひとつ。ジェイムス・ブラウンも全部OKなわけじゃない。曲なんですよ。ぼくは誰も全面的には信じない。これは腑に落ちるな、と思える部分しか、ピックアップしない。安倍さんの言うこと全部OKとか、小沢一郎全部OKとか、そういう態度には怖さを感じる。

桑原 アルバムじゃなくて、全部シングル主義に戻せばいいじゃん。(笑)

椎名 全面的に信じる方が楽だもんね。

沖野 ラジオやっててね、「沖野さんの選曲いいです」って言ってくれるけど、「俺のこと信用してくれなくていいから」って言う。俺はリスナーに提案するだけ。その中で気に入ったものがあったらチョイスしてくれていい。「沖野さんいいけど、私にはちょっと違う」と言うのも、全然ありだと思っている。どんな偉大なDJであっても、ぼくはそうやって接してきた。「ああ、世界の沖野修也」、「Kyoto Jazz Massiveの沖野だ」ってなって、ははーって頭下げるのは、ぼくみたいに影響力が知れている者に対しても、それは違うと思ってる。全面的に信用して影響を受けるって怖いなあって思うんです。


フリーダム・ディクショナリー
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