映画「シェル・コレクター」について

盲目の貝類学者が、一人孤島に住み、手探りで貝を拾い集め、自然に対して畏怖の念を抱くというアンソニー・ドーアの短編小説「シェル・コレクター」の感応に満ちたストーリーに読者として以前から惹かれてました。

映画化しようと思ったきっかけは、日本で震災を経験し、その後に渡米した時期が重なったことが大きいです。米国滞在期間中、日本人の自分が世界に向けてどう作品を提示するのかを考えていた際に、海外の文芸作品を日本に置き換えて脚色した作品を作るアプローチはどうか?と考えました。NY で出会ったインディペンデントの映画プロデューサーに「シェル・コレクター」の小説と映画化する場合のシノプシスを読んで頂き、アメリカにおける原作権の取得方法を相談する中で、共に映画化の可能性を探り、国際共同企画を練っていきました。

原作の舞台はケニア沖の孤島です。その島で学者を取り巻くのは、圧倒的な自然と、そこに根付く、西欧とは全く異なる文化や死生観を持って生きる人々です。小さな島で起こる出来事が、あたかも世界の縮図のように人々の多様な有り様を浮き彫りにしていく様が、この物語の魅力でもありました。

シナリオを書くにあたっては、先の見えない暗い闇の中に、かすかな光を求めて、そこに向かって進んでいくイメージを原作にある盲目の学者の境遇に照らし合わせて日本に置き換えて脚色しました。

撮影に関しては、ベテランのキャメラウーマン芦澤明子さんが切り取るフレームを信頼して、フィルム撮影をお願いしました。芦澤さんと打ち合わせを重ねる中で、デイシーンは16mm フィルムで色濃く撮影し、夜間の撮影は闇に強いHD カメラ、水中は高解像度の4K のカメラを使用することになりました。16mm フィルム独特の粒状性とデジタルの鮮明さがこの映画の中で混在し、過去の既視感と現在の危機感そしてまだ観ぬ未来像(昨日、今日、明日)の光景が混ざり合ったイメージを想起して、とある時代の自然の中に取り残されてしまったような虚無感漂う画作りをしました。

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ロケ地は沖縄です。奇跡が起こるかも知れないと思わせるような聖なる場所を探して、沖縄の離島、渡嘉敷島に決めました。この映画は、人が自然と対峙する野外でのシーンが多数あって、リリーさん演じる学者が海底に佇むシーンの撮影は、渡嘉敷島からボートで沖に出て、実際にリリーさんが水中に潜って頂いて撮影をしたので、現場でのリリーさんの身体を張った生身のアクションに気迫を感じて、船酔いの中で大変緊張したこととあわせて、とても印象に残っています。また、学者の住む家を渡嘉敷島の海岸にロケセットとして建てたのですが、美術の竹内さんとアイデアを出しながら、家の中は、巻貝の殻の内部構造のような螺旋を描く空間を作り、外観は盲目の学者の身を守るシェルターのイメージで意匠を凝らしました。

観る方によって、捉え方が様々に変化する作品だと思います。玉虫色に光る不思議な映画ですが、観客の方それぞれの感性、センス・オブ・ワンダーに触れるものになれたら幸いです

監督 坪田義史 


映画『シェル・コレクター』
2016年2月27日より、テアトル新宿、桜坂劇場ほか全国ロードショー!
監督:坪田義史
出演:リリー・フランキー 池松壮亮 橋本愛/寺島しのぶ
音楽:ビリー・マーティン
原作:アンソニー・ドーア『シェル・コレクター』(新潮クレスト・ブックス刊)
ⓒ2016 Shell Collector LLC(USA)、『シェル・コレクター』製作委員会


フリーダム・ディクショナリー
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