とある桑原 茂→の Peace Songs Book を触歩く その一 京都探訪編 [前編]

初代選曲家は京都へ向かった。
目的は「peace songs book」を触歩くこと。有り体に言えば書籍の販売だ。その販売を通してその土地の人々と交流し、そのあらましをここで報告する。一種のフィールド・ワークと言ってもいい。そういうことにしておこう。
そもそも、この選曲本は、free paper dictionary の連載企画「そこはかとない反戦選曲」をもとにボランティアスタッフと再編集し、印刷費をグリーン・ファンディングで集め、平和を選曲するアクションを未来へ残そうミッションで制作した。しかし作るのは勝手だが、自主制作本を売るのは容易ではない。ならばその容易ではない赤裸々を旅日記形式の記事にしよう。で、まずは憧れの京都へ。が、一筋縄では開かない古都の京都のジャストへ潜入するには、ボヘミアンでアブストラクトな、しかも生きる作法に長けたナビーゲーターのヘルプが必要だ。そうだ、女神がnow 京都だ。
今年28 年目を猛進中のフリー・パーパー・ディクショナリーの「守護神=女神」→ 東京、ロンドン、ハワイ、ブラジル、アフリカ、メキシコ、中米、インド、ブータンと世界を巡り、NY のブルックリンで奮励創作するアーティスト。ニューヨーカー・Yuri下條の登場だ。では早速、ユリちゃんの京都愛溢れるナビゲーションをご覧いただこう。

l1060697いつものお山へ愛犬Rudy と散歩。

茂一さんへ

今回はPeace Song Book を置いてくれそうな「いわゆる」のところに声をかけました。でも、「お店といってもなんの店?!」というような、京都ならではのユニークな店がいっぱいあります。革命の実験アジトみたいな『ナミイタアレ』『DBC(出町柳文化センター)』と貸し自転車で京都の街とそこに来る人々の意識をくすぐっている『レンタルサイクルえむじか』の留くん。お酒を分かち合って君もクレイジーな家族になれる覚醒の居酒屋『村屋』と健やかに狂ったアートギャラリー『momurag(モムラグ)』のしゃこじろうとみなみ。「すべて」自分でつくり、育て、出す(農業、狩猟、皮はぎ、溶接、スマイル、すべて)『ナヤカフェ』のユウキくん。
鬼のように愛をこめておにぎりひとすじにぎり続ける近所の兄ちゃん『青おにぎり』の青鬼こと青ちゃん。色町のとまり木・五条モールにある駅のような不思議な共同図書室『home home(ホムホム)』のうめのくん。マグロを漬けて丼にする『屯風』のアニキ、山本精一師のギターと共に京都の妖しいお伽噺をしてくれるアンビエントノイズ落語家・屯風亭とんぺいさん。塚本功氏のエデンの東の贅沢な生演奏に合わせてどこでもいつでも餅をつく『餅つきせん隊ペッタンコ(恋と餅は熱いうちにつけ!)』・・・ああきりがない。とにかく一言では説明しにくい、真剣にくだらない大切な商い・試みを真面目に営んでいる存在がここにはたくさんいます。
あ、あと大切なこと。私がこの街に一番感動し、NYと同じだと思い、ここなら住めるかも、と思えたのは「街の妖怪たち」が堂々と市民権を得て普通に生活している事実です。
東京にも昔はいた、なにしてるのか知らないけど誰もが知ってる「**さん」らが。「ユリちゃんはなぜ日本で帰ってくる場所を東京から京都に移したの?」と聞かれます。「この界隈の、しれっと(京都で覚えた言葉)至極アナーキストでクリエイティブな風に誘われて」なんて格好つけて答えたいとは思いますが、どちらかというと社会派というよりも詩人なわたしは「ボヘミアンなガイジンだから。ムーミン谷のようだから。そして悠久の時を超えた土着感バリバリだから」みたいな、すごくアブストラクトな表現でしか答えられません。すみません。
最後に身内の宣伝をさせていただきますと、本の多いお土産物屋(ほんとよくわからない)『ホホホ座』が次に出す本はその名も【なのにあなたは京都に来たの】という、いけずと言われ敷居の高い不可解な古都・京都にわざわざ外から住みにやってきた好き者たちのインタビュー本です。おもしろい人選ですよ。わたしそこで偉そうに語っています。

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下條ユリ【墨と朱】版画展のお知らせ
NYで生まれた赤と黒のシリーズが、国内初、大阪にお目見えします。今年初春ブルックリンでスタートした巡回展、新作、本も展示・販売します。
10月15日(土)〜30日(日)
場所:大阪・丼池(どぶいけ)繊維会館
詳細は主催design de、ホホホ座、下條ユリのHPへ
http://www.yurishimojo.com/news.html
「墨と朱」について インタビュー映像
https://m.youtube.com/watch?v=tGD0rXxn4gw

ユリちゃん、京都へ導いてくれてありがとう。本来ならばフィールド・ワークと称して1年ほど暮らし探求後に、京都の真実をご報告したい。のは、山々なれど、ファースト・インプレッションズ 京都!ということで、今回はユリちゃん紹介の、以下の5軒の探訪結果を報告させていただきます。
1、100000tアローントコ 2, JETSET
3,恵文社一乗寺店 4, 誠光社 5, ホホホ座

image4これが京都か!呆然と立ち尽くす初代選曲家。突然エルガーの威風堂々が鳴り思わず背筋が伸びる。京都市役所 

100000t アローントコ

京都駅からバスで直行したのがここ。謎は解けた。「アローントコ」の意味は、大盛りオムライスで名を派したキッチンの屋号がアローン、アローのとこへ、がその答え。100000t だけでもややこしいのに。

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Q このお店のお薦めはなんですか?

A いまんとこ、このシリーズかな。アマゾンで1 円で売ってました。

Q 一円で仕入れ? フィルム・ノアールの?ノアール?

A 犯罪小説です。

image6店主 加地猛さんは大阪の自宅から京都のお店に通って13年とか。大阪人の開放感と京都人の几帳面さの絶妙のバランスがまるで古くからの友人のような気分にさせてくれるナイスガイ。
 

Q どれ読んだらいいですか?

A これとちゃいますか?

A よく小説に、自分ことが書いてあるっていうじゃないですが、これが、それですわ、

Q えっ?それって?

A おっ、久しぶり、伸びた伸びた髪伸びた。何してたん、二年振りとちゃう?見ていって、えっ?就職してんやのにサボってきたん、マジで、何、笑ってんねん、無断で失踪してきたんやろう、そんなしてたら、お金もらわれへんで、うん?彼女?見つからへん、舞ちゃん?ますみちゃん?俺のことはどうでもええ。

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おや、加地さん、その子口説いてはんの?それとも女性客に口説かれてますの?饒舌な犯罪小説の暗黒がこの店にも感染しているのか?昨日出張買取してきたという、マン・フレッド・マンをBGMに、加地さんの客への応対がイケてる。そういえば、comme des garconsのパリコレ選曲の折に何度か耳にした「ノアール」とはフランス語で黒。黒い色のことだ。

Q 加地さん、このノアール(黒)はどうです?

A それで買う人がいる。向こうも完全狙ってきてます。

Q でも意外と音、大したことないでしょう?

A ふふふふ、

Q レコードは、どの辺に力入れてんですか?

A 割と辺鄙なやつ、フリージャズ・・・レア・グルーブ系じゃなくて、ブラックセイント、千円ぐらいで買えるやつ。

Q 値段かいな、(二人笑う。)

趣味の店のようにも見えたが、それでは商売にはならないらしい。古書店、中古レコード店は、買取が肝だそうで、持ち込まれたら断れないとか。店の入り口の100 円コーナー・ワゴンにも納得。

Q ところで昨今のアナログの人気は本物ですか?

A 〇〇ちゃん、どう思う?

いきなり古着を納品に来た女性に質問を振った。
“そやな、わたしもぎょうさんレコード聴きますねんけど、デジタルはじゃまくさい、目で見て触れへんと落ち着かへん。音質はCD もレコードも小さい音なら関係あらへんと思うわ”

うん?女性DJ なのか?と想像したら、そこへ姉妹風がカップルが加地さんに話しかけてきた。

“かんにん~、うちらな、きんのん、表のカゴの本持ってんたん ”

二人はそれぞれに、本代100 円を店主に渡している。

“おおきに、今度からそこに100 円置いといて ”

“ 貯金箱置いといたら?”

“ 貯金箱ごと持っていかれるわ~ ”

“そや、なぁ~、キャキャキャ ”

“ええから、今度からそこらへんに置いといて ”

思わず頬が緩む日常の京都。その間もレジの音は鳴っている。店主加地の手は止まらない。客層も幅が広い。目的を持って買い物に来ているのがわかる。店主とお客との距離感がこの店の魅力だ。 友達相手のようで緊張感は失わない。みんな加地さんが好きなんだな。

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おっ、peace songs book 大切に販売してくれている。


嬉しくなって買った本とCD。

image9変わらない緩さがきっとみんな今もこれからも好きなんだな。スチャダラパーの本。売れてるそうだ。
 
image10読み始めたがまだ入り口で躊躇している。翻訳ものは文体のリズムが辛気臭い。黒い小説かなん。
image11京都はいけずやの先入観を増幅させる気分がまさにこれ。私にはじれったいじゃまくさい。かんにんえぇ~。
 
image12ねぶる黒い歌謡曲。初老の嗜みか。

image13トイレに貼ってあった絵に謎の落書き。
 
image14ノアールなエントランス。

あてにしていた加地さんからQ&Aアンケート答えメイルが到着。

 お店の歴史を簡単に説明ください。

2009年開店、4年後に現在の場所へ移転。相当変な店だったのが、いろいろあって、まあまあ普通の店になってきました。

 お店の特徴を表す商品をいくつか選んで、選んだ理由を聞かせてください。

①「けっこうな量ある古着」
そのほとんどが店主の友人らの私物で売れたぶん全額10割を持ち主に還元しています。なにやってんねやろ?と思いつつ、まあええか、と続けているのですが、よく考えたら全てそういうノリでやっているような気がしてきました。

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②『ポップ1280 』 ジム・トンプスン
最近読んでいちばんシビれたお行儀の悪い小説本。著者のことを全く知らず、悩みが多すぎて寝ても8時間か9時間しか眠れないとか、どういうつもりでこんなアホなことばかり言っているのかよくわからなかった冒頭50ページには特別感激。こんな辺鄙なところにこそ、何かがあると思っています。

③他、「 ” 遠い触覚” ほか、保坂和志さんの著作」
出版社から買いきって仕入れた新品。ずっと読んでいます。

 お店のポリシー & 京都でどのような役割を担っているとお考えですか?

空気を読んで空気を無視すること。京都の町のレコード屋の存在をアピールすること。

100000t アローントコ
京都市役所ま横にあるレコードと古本とその他の店。
何もかもがオールジャンル。
〒604-8075
京都市中京区寺町御池上がる上本能寺前町485
モーリスビル2F(京都市役所西側)
TEL:090-9877-7384
HP:http://100000t.com/
MAIL:100000t@i.softbank.jp(担当:かじ)

JETSET

京都出身の世界的なDJ 田中知之が90 年代の終わり頃、下北沢で初めたのがDJ 御用達アナログ店JETSETだとすっかり勘違いし、その本店にお邪魔したつもりのボケな私。エレベーターで7 ?階へ、あっと驚く広い店内、入ってすぐの壁に陳列されたJETSET オリジナル・レーベルのジャンルの広さとタイトル数に圧倒される。ダンス専門店のイメージをいきなり覆いさせられた。これまでメイルでやりとりした担当の小堺さんは今日はお休み、滑ったまんまの店長インタビュー。

 

 
image16京都店店長 香西哲さん。

Q 広いですね~、オール・ジャンルなんですね。

A 京都で新譜を扱っているレコード店はほとんどないんです。中古店は沢山あるんですけど。

Q えっ、それはなんでなんですか?

A ・・・どうなんですかね、

Q レーベルのタイトル数は毎月どのくらいですか?

A ・・・毎日何らかの新譜が届きますね。

Q えっ、では、毎月50 タイトルとか100 タイトルとか、

A そうですね、

Q すごいですね、オープンして何年になりますか?

A ・・・18 年、・・・98 年オープン、

Q 店長されて、どのくらいになるんですか?

A 一年くらいですかね、

Q プロアマ問わず、DJ のお客さん方は何% ぐらいですか?

A ・・半分ぐらいですかね、

Q DJ 御用達は変わらないんですね。私も毎週金曜日pirate radio でMIX 選曲してるんですが、何か推薦してもらえませんか?

A それぞれのジャンルにバイヤーがいるんで・・

Q それは理にかなっていますね。お店の方もDJ の方が多いのですか?

A バイヤーはほとんどDJ ですね。

Q バイヤーは何人ぐらいいらっしゃいますか?

A ・・・12 人、ですかね。

Q 店長はDJ もやられますか?

A ・・・やらないです。

Q 昨今のアナログブームをどうご覧になってますか?

A ・・・

Q レコードの生産は追いついているんですかね?

A ・・・遅れてる気がします。

Q 私の認識不足でした。新譜を扱うレコード店というのはそれぞれの役割が見事に細分化されてるんですね。お店は京都本店と東京の下北沢店の2 店舗、すると通販が全体の売り上げの半分以上とか?

A そうですね。

Q ありがとうございました。小堺さんによろしくお伝えください。明日また小堺さんへ電話させていただきます。

JETSET
〒604-8006
京都市 中京区下丸屋町410 番地
ユニティー河原町ビル6F
075-253-3530

後編に続く


フリーダム・ディクショナリー
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