植田 工

Have You Ever Seen the Rain
Creedence Clearwater Revival

「住めば地球」でこの曲がかかっていて、初めて行ったアメリカでの朝、ラジオからこの曲が流れてきたときは奇跡でした。

1990 年、日曜日の朝、８時半からTBS で「兼高かおる世界の旅」がやっていて、そのあと10 時からテレ朝で「住めば地球」という海外で働く日本人を取材した30 分のドキュメンタリー番組がやっていました。ある日の「住めば地球」、当時たった一人ディズニーのアニメーションカンパニーで働く「パロ穂積」という日本人アニメーターの回がありました。70 年～ 80 年代前半に低迷が続いたディズニーでしたが、テレビアニメーションに進出して復活の兆しを見せ初め「ダックテール」「くまのプーさん」のテレビシリーズが日本でも放送されていました。そのテレビ版「くまのプーさん」のコンセプトの背景画＝キーバックグランドを描いていたのが、パロ穂積さんでした。ディズニーのスタジオの中で絵筆を振るうパロさん、テレビ画面の中で大映しになるそのパロさんの背景画は、それまで見たことのない鮮やかで優しい世界の風景でした。
番組中に海外不動産のオーナーですとかリースマンションのオーナーですみたいなCM が流れていて、今にして思うとバブル絶頂期だったのですが、小学６年生の子どもにはその頃がどんな時代の流れの中にあるのか知る由もありません。ロサンゼルスの街をBMW で走り、ロサンゼルスの郊外に住むパロさんの生活も輝いて見えました。パロさんの全てが目映く見えました。いつか僕もディズニーのあんな環境の中で絵の仕事をして、あんな生活がしたいと思うようになりました。それが、1990 年小学６年生の子どもの頃に想い描いた夢です。その番組の放映の頃、ディズニー長編アニメーション映画「リトルマーメイド」が公開され大ヒットを記録します。「美女と野獣」「アラジン」「ライオンキング」と立て続けに長編アニメーションでヒットを連発し、90 年代ディズニーは完全復活を遂げます。そんなディズニーの活躍に、中学生になっても、パロさんへの憧れは大きくなる一方です。一刻も早くアメリカへの将来の道をつけようと、中学２年のホームステイの派遣に応募しましたが落選し、しかし余計に想いは強まります。カリフォルニアに行けばディズニーの色に出会えるはずだと妄想は膨らみます。そして1995 年、高校1 年の冬休み、父親にロサンゼルスに連れて行ってもらいました。初めての飛行機、初めての海外、胸を高鳴らせてロサンゼルスの空港を降りると、あいにくの雨。カリフォルニアの空は一年中ピーカンで、曇り空など１ mmも想像もしていなかったので、青天の霹靂です。空港からアテンドしてくれた現地コーディネーターの方の車でダウンタウンまで連れて行ってもらうと、リトル東京の裏手がスラムで昼からドラム缶にたき火をしている人たちが屯している光景を目にします。パロさんの放送のあの頃、湾岸戦争が起きて、ソ連が崩壊し、日本のバブルが崩壊したことがどういうことかなど知る由もなく、ずっと憧れたアメリカに遂にやってきたのに、そこで目にしたのは僕の想い描いていた風景とは全然違うものでした。小学６年の頃、僕が見たあの景色はどこにあるんだろう？あの幸せな風景はどこにあるんだろう？想い描いたあそこに来たはずなのに、あそこがどこかへ消えてしまって、迷子になってしまいました。でも、あの頃に心惹かれた風景はきっと何処かにあって、絵を描き続けていたらきっとそこに辿り着くはずだと思って、それからずっと描き続けていますが、いまだにその夢の道中ばです。夢は現で幻か。※「住めば地球」パロ穂積のビデオ録画を大事にしていたのですが、youtube にアップしております。
https://www.youtube.com/watch?v=dNAWhQZGlWI

PEOPLE : 植田 工