ヴィンセント博士の ロマンティック物理学vol.12

Writting / ヴィンセント博士 @VINCENT_R_P (Twitter)
これはいわゆるアインシュタイン以降の物理学ではない。というかそんなハイレベルな知識は必要ない。僕らはこの世界を五感によって認識あるいは観測していて、特に目に見えるものばかりを前提とした社会で、今日もウダウダ生きている。しかし、この世界や宇宙には目に見えないもののほうが圧倒的に多いのだ。重力だって、音楽だって、感情だってそうだろ?偉い学者の理論や数式はわからなくてもいい。ただ「目には見えないかそけきものたちが、確かに在る」という視点で、この現実を甘美に観測すること。-それが、「ロマンティック物理学」である。

第12回 バタフライ・ワークのススメ

人生でなるべく避けたいことのひとつは、通勤ラッシュの電車に乗る事だ。電車の無い南の島で生まれ育った僕は、とにかく満員電車がダメなのだ。「嫌いなものは何?」と聞かれたら、迷わず「酢豚のパイナップルと満員電車!」と答える。しかし、どうしても乗らざるを得ない状況になったため、「今からフェスに行くぞ!」というキモチで、臨む事にした。…しかし、やっぱりアレはダメだ。どう考えても苦行としか思えない。せめて各車両ごとにDJがいて選曲しているとか、全面プ囗ジェクションマッピングで宇宙空間化されたエンターテイメント体験とかが出来るのならいいのに。移動のために、神経と肉体を極限まで疲労せざるをえない。ぽんとみんなすごいよ!(涙)。そんな超過密空間でじっと息を潜め、きちんと整列して乗り降りする人々のさまを見ながら、つくづく、ニンゲンは働物(どうぶつ)だな…と思った。
生きるために働くのか、働かされるために生きているのか。働き方改革が叫ばれているが、通勤ラッシュが無くならない理由は、都心部への一極集中というスペース÷人口の問題と、必然性がなくても始業時間は朝8~9時と断固変えない企業体質の問題とがあるだろう。宇宙は膨張しているのに、どうにも狭いぞ、ニッポン。

しかしそんな価値観はすでに多様化して、働く場所は会社という箱からはみ出して、シェアオフィスとかノマドとか外にひろがってきている。だって、Wi-fiとPCかスマホがあればおおよその仕事はできるようになったからね。距離や空間という物理制限はどんどん薄くなっている。『働き方改革』がじんわりと社会テーマになっている背景には、そういったテクノロジーの進化と浸透が起きた事が大きいのは言うまでもない。場所を固定化して働くことの必然性が失われ、人々はあちこちに分散してネットワークしながら仕事をするスタイルの有効性に気付き始めたからだ。行動様式に多様性が生まれると、社会通念も変わる。「どの会社で、どんな仕事をするか?」から、「やりたいことを、いかにやりたいようにやるか」という、自己実現性を重視する社会になってきた感がある。

しかし、これは今にはじまったことではない。どの既存組織や機関にも属さず、自らの旗を掲げて生きる人たちはたくさんいた。かつては企業に従属するか?フリーランスで生きるか?の二項対立で、前者のほうが一般的に良しとする風潮があった。少なくともほんの10年前はそうだった。今は、どこに属するかよりも、何をするか?が大事だと、多くの人が考えるようになった。これは、そういう生き方を体現する人の総量が増えたからだろう。社会の観念というのは、その時代のシステムや構造に支配されてしまうものだが、おもしろいのは、いつの時代にも常に『ハミダス』人たちがいて、より自由性とか多様性を高めるような発明を起こしてくれるんだ。(そういう意味で、Youtuberがスゴいのではなくて、Youtubeをつくった人がスゴいし、もっというとインターネットを発明した人がもっとスゴいので、そこは間違えないで欲しい。)

ハミダス人たちは、いつも特異に扱われる。物理や数学では「他と同じルールを適用できない点」のことを「特異点」と言うけど、まさにそれだ。そういった人たちの熱量から、このディクショナリーもはじまったと思う。(祝!30周年!!!)
どれほど多くの特異点、ハミダス人たちが参加してきたか。どれほどの言葉や思想を発露させてきたのか?それらを物理的なエネルギーとして見ると一体どれほどの総量だろうか。ディクショナリーというメディアが、“ある世界”と、“無かった世界”は、明らかに違う。もし、ディクショナリーがなかったら、日本からはとっくにレコードショップが絶滅していたかもしれない。 EDMフェスが盛り上がっているが、その土壌は出来なかったかもしれない。或いは、君が今着ているどこかのブランドの服は存在しなかったかも。それをちょっとイケてるなと思って君を好きになった恋人は、他の誰かといたかもしれない。これは、気象学者のエドワード・ローレンツが提唱したバタフライ・エフェクトの問い一「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきは、テキサスで竜巻を引き起こすかー?」という問題の答えに近い。これは、ディクショナリーだけの話ではない。君が、今さりげなく動いたことは、物理的には間違い無く空間に波を起こしていて、その波は伝播する。その波が、どれだけ大きくなるかで、世界は物理的に間違いなく変わる。「やりたいことを、いかにやりたいようにやるか」というテーマは、ロマンティック物理学的に言い換えると、「僕の羽ばたきは、世界に竜巻を起こせるか」という視点で世界に向かうことだ。「好きなことを仕事にする」というだけでは、難しい。「お金がない」「経験がない」「時間がない」と言い訳も沢山生まれる。ひとつの考え方として、今の社会とか、生活の中で、「おかしいぞ」「イヤだな」と思うことに対して、ハミダス人になり、特異点になることを考えてみてほしい。そして、羽ばたきを起こすこと。他者をよりよい場所に連れて行ける波を起こせるかどうか?という視点と、それをいかに続けられるか?、いかに多くできるか?を考えてみてほしい。もちろん、なるべく人を幸せに出来るかどうかを基準にね。僕も茂-さんもまた、そうやってパタパタ飛んでいる最中である…。


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