ヴィンセント博士の ロマンティック物理学vol.9

Writting / ヴィンセント博士 @VINCENT_R_P (Twitter)
これはいわゆるアインシュタイン以降の物理学ではない。というかそんなハイレベルな知識は必要ない。僕らはこの世界を五感によって認識あるいは観測していて、特に目に見えるものばかりを前提とした社会で、今日もウダウダ生きている。しかし、この世界や宇宙には目に見えないもののほうが圧倒的に多いのだ。重力だって、音楽だって、感情だってそうだろ?偉い学者の理論や数式はわからなくてもいい。ただ「目には見えないかそけきものたちが、確かに在る」という視点で、この現実を甘美に観測すること。-それが、「ロマンティック物理学」である。

第9回 多世界に生きる。

今回は、中学2年生くらいなら興奮してしまいそうなパラレルワールド(並行宇宙)について話そう。今の僕らがいる宇宙から分岐して、同時に存在している別の宇宙がある…。「多世界解釈」とも言うアレ。

現実が、まるで一つの音符のように立ち上がり、そこから無数のパターンのメロディが編み出せるように。今、僕と違って全くモテないそこの君が、ハリウッドスターになっている別の現実世界があるかもしれない。あるいは希代の殺人鬼としてワイドショーを賑わせているかもしれない。(やめてください)
それが起こりうる可能性という意味では、全て無限だからね。そんな多世界的な宇宙は、いくつも同時に並行して存在していても、互いに作用する事は決してない…と考えられてきた。だって量子力学の理論上の話であって、現実には簡単にそこに行けもしないしね。

ところが、つい最近になってパラレルワールド同士が量子レベルで相互作用しているという理論まで飛び出している。違う世界同士がお互いに影響し合っている、と。もしかすると、こっちの世界で全然モテない君の願望が、あっちの世界でハリウッドデビューして毎晩パーティー三昧させているかもしれないという事。まさに現実と夢の相関関係のように。

仏教には「事事無礙法界(じじむげほっかい)」という言葉がある。“法界”とは、現実世界とその裏側の実相世界を合わせた世界のこと。“無礙”とは、隔たりなく調和している状態のこと。この世にある森羅万象、あらゆる“事”と“事”は作用し合いながら、共存しているということなんだけど。もうちょっと分かりやすく言うと、過去も未来も原因も結果もなく、全ての事がそのままつながって存在しているようなイメージ。まあ、頭が混乱してしまいそうだけど、量子力学を知ろうとする度に、仏教ってすげーな!と思うね。数式や実験による証明を介さないだけで、それらは全て解明されていない科学や量子力学の答えを示しているのかもしれない。

それにしてもパラレルワールドがあるとして、大抵の人は「何故!今、オレは!…ここなんだよ!」って思うよね。もっといい世界がいいし、最高の自分がいい。そっちの現実に行かせろよ!って思わない?みんな、常に不安だし、不満。何の因果で?とか、なぜこんな目に合うのだろう?とか。起きる“事”に対してあての無い理由を知りたい。でも知り得ない。(だからこそ、宗教や化学があるとも言えるだろうけど。)

そんな不条理な現実の中で、みんながそれぞれの価値観で、見えない世界への憧れと今の自分という現実を戦わせているのが、ここ最近の多様性の正体でもあると思う。人種や性別を超えて、人間性を解放しようとする時代でもあるだろう。ちょっと前まで、多くの国で、女性には参政権が無かった。かつての日本では、野際陽子やツイギー来日まで、女性がミニスカートを履くなんて事はタブーだった。今じゃもうほんとなんというかアレだけど…。性のエントロピーが増大しすぎて、対称性の破れの如く、文字通り衣服を破いてけしからん露出になっているね。それについてはもう本当にありがとう!!なのだが、一方で、そういうセクシーな露出や色気ありきの女性観もまた、ステレオタイプになっている。LGBTという記号によって身体と精神の性別のズレにも寛容性が芽生えた社会になったよね。今では、ミニスカを履いた男でも投票できる社会になった。パラレルワールドに行かなくても、自己実現が出来るような世界へと少しずつ向かっているのは間違いない。かつて、誰かが夢見た別の世界が、今実現されているということ。今、僕らのいるこの地点が、ある過去の地点にとっての並行宇宙ともいえる。

時間という概念を取り払えば、すでに多世界は成立しているわけだ。パラレルワールドに行けなくても、パラレルに生きることは出来る。僕の友だちにも、いくつもの肩書きを持ち、妻子も愛人も複数いる…そんなパラレルライフを送っているやつだっている。

そんな生き方を非難する人もいるだろう。心の中では憧れながらも行動にする人は少ないだろう。政治、法律、会社、学校だけでなく、ファッションや音楽などのあらゆる業界で、多様性の波と近代がつくった幻想の海が混在している今。すでに機能不全に陥っているに関わらず思考停止している大人も多い。ああ、今すぐ別の地球に行きたい…と思っても仕方がないだろう。

もしパラレルワールドがあるならば、別の宇宙では今より自由を謳歌している君自身がいる。こちら側でそれを出来ない理由は、社会通念と君の観念にある。それらをつくり出しているのは人間の脳だが、そんな脳みそが、実は宇宙並に、あるいは宇宙以上に複雑で高次元だということが最近はわかっている。3次元の世界にいるはずの僕らの脳は、最大11次元で動作する多次元幾何構造なんだってさ。パラレルワールドは、今すぐ、君の脳を使って実現できるかもしれない…そんな可能性を持っている。

さ、どうでもいい勉強はやめて、恋人とイチャこくんだ。やらなくてもいい仕事は捨てて、やりたい事をアレコレやろう。あらゆる場所に行けばいい。その瞬間に、多世界は立ち上がるはず。パラレルワールドがあるか無いかは物理学者たちに任せるとして、僕らはパラレルライフを体験すればよい。そういった生き方が増えていくことが、この世界をもっと多様にするし、宇宙を広くしてくれるはずだ。


フリーダム・ディクショナリー
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