うつくしいひと 第一回「ギフト」

柘植伊佐夫 文/写真
Naoko Ballet Artist

「うつくしさ」とは、「神がしかけた共感の装置」ではないでしょうか。あなたが感じるうつくしさとわたくしが感じるうつくしさには違いがあります。その違いがあるからこそ、「あ、君もやっぱり綺麗だと思う?」などと気持ちを分かち合うことができます。あるいは宇宙に隠された数学的美しさはどのような人もその魔力にあらがえず、時にはその秘密を解くために人生を投じる話さえ耳にします。うつくしさを感じるのに意味はありません。その気づきは形而上の世界や現実の世界をつなぎます。わたくしも作品をご覧になるみなさんに共感を得ていただく装置として美をあつかっています。

「共感」というのは厄介な代物です。映画や舞台のように人間ドラマが繰り広げられる世界では、うつくしさの導くものが、「憧憬」「気品」や「崇高」であるのはもちろん、「異質」「退廃」や「陰険」などの、見ようによっては負を思わせる場合もあります。後者を単純に表すのであれば、うつくしさばかりを使う必要はありません。むしろ「みにくさ」という道具があります。けれども安易な解釈では表現の深度を見破られてしまいます。そこで心情や性格や行動の暗部を包み隠したり際立たせる仕掛けとしてうつくしさを使うこともあります。

うつくしさの判断はとても厳密な一方で、これほど条件が曖昧に変化する概念もありません。少なくとも「人のうつくしさ」を取り扱っている自分にとりまして、「外面の美」と「内面の美」の一致度は作品世界と現実世界で異なります。なぜなら仮に映画において、「役柄」を生み出すのは生身の「役者」になりますが、役柄がみにくい心であるとしても役者の心とは関係がありません。そこで容姿と演技力が大きな要素になります。仮にここでは演技力を考慮せずに外面的な条件をはかるだけでも、両者の問にズレが生じます。そこで「演じるべき主題」と「本人の素地」を「うつくしさの種類」によって接着する必要に見舞われます。

わたくしの仕事は、その接着材料として、「うつくしさの質・量・方向」を決めるものです。表現におけるうつくしさとはそれらの無限の組み合わせと言えるのです。ここに用いている「うつくしさ」という言葉は、「人のうつくしさ」に限定しています。「人」という解読のむずかしい代物にとって、「外面的なうつくしさ」には「内面的なみにくさ」が内包されていることもあります。だからこそ作品世界では、「みにくさをうつくしさによって表現すること」ができるわけで、「みにくさとは何だろうか?」という自問は、うつくしさ本体を暴くのに無駄にならない姿勢です。

古今東西を問わず人は容姿のうつくしさに惹かれやすいものです。かく言うわたくしだって美人には弱い。ここで言う美人の基準は、「黄金比にもとずく美人」という古典的な美学です。そのような容姿の持ち主は、フィボナッチ数がうつくしいラインを描き、そのうつくしさを万人がうつくしいと感じるような、生命へ強く働きかける宇宙の神秘です。黄金的=古典的うつくしさの持ち合わせる魅力にたいして、「性的な磁力」「生存のための芳香」の暗喩であるかのような確信を抱かせられます。そうとらえたならば、例外なく人がうつくしさに憧れて近づこうとする欲求に合点がいくからです。

ところがわたくしは「黄金比にばかり頼る美人」にそれほど惹かれないという性癖の持ち主でもあります。外面的なうつくしさは大切だけれども、その条件の良さは内面的なうつくしさと同じではなく、外面の追求が過度になれば内面の美をそこない「みにくさ」へ向かうことを知っています。わが国は古来より常若の思想を持ち、同時に侘び寂びも確かな地位を築いています。新鮮で冒しがたい処女性に美を見出す一方で、時間とともに内実をともないその熟成のなかに真実を見つける眼力もそなえています。黄金率がうつくしいのと同様に、その対称性が崩れていく過程にもうつくしさは存在します。

現実世界において「人のうつくしさ」は割り切りのきくものではありません。「人が育んだ内面=生きざま」が外面に強く影響を及ぼします。作品世界において衣装や髪型、化粧を決める場合であっても、それらはただ数学的・比率的に外面を整えるだけの道具ではありません。それを通じて内面をえぐり出すものです。生身の暮らしでは、日々時間をかけた精一杯の努力を通じて内面が磨かれます。内面への真摯さと外面のありさまに偽りのない一体感が生じて、本人の人生そのものだとひとびとから共感される。人のうつくしさとは、そのような内外と主客の相互作用でたちあがるギフトなのです。それを受けとっている人が、「うつくしいひと」なのでしょう。


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柘植伊佐夫
人物デザイナー / ビューティディレクター

60年生まれ。ビューティーディレクターとして滝田洋二郎監督「おくりびと」や野田秀樹演出「EGG」「MIWA」などの舞台、マシュー・バーニーの美術映像など国内外の媒体で活動。 08年より「人物デザイン」というジャンルを開拓し、大河ドラマ「龍馬伝」「平清盛」、映画「寄生獣」「進撃の巨人」、舞台「プルートゥ」などを担当。作品のキャラクターデザイン、衣装デザイン、ヘアメイクデザイン、持ち道具などを総合的に生み出している。


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