うつくしいひと第十四回 「信奉」

柘植伊佐夫 文/写真
田村翔子 モデル

会っていないのに会ったような気がしている。ここまでSNSが普及しているとそんな気になっていることが多々あります。実際にお会いしたことがない人なのに仮想空間では繋がっている。もう随分とお会いしていないのにやはり繋がっている。それなものだから「会ったような気になっている」あるいは、「会っていないという飢餓感がない」。不思議な時代ですけれども、人との繋がりのリアリティーというものに仮想空間が入り込んで、そこの繋がりも含めたリアリティーに変化しているように思えます。なので「実際に会うこと」をリアリティー体験として定義している人間にとっては不可思議かつ生きにくい世の中なのかもしれませんが、案外自分は、「会わないけれども繋がっている」ということもリアリティーの一つかもしれないと受け入れて生きているような節もあります。

仮想空間で自分のアイコンや写真を公開するときに、各種のアプリケーションの力を借りて「加工」することはすでに一般的なのは自明で、むしろ「ナマ」で出ているということを疑う精神すら醸造されている昨今です。その行為は、「自分の理想に自分を近づけたい」「他人に自分の思う自分の姿を印象付けたい」という欲求に根付いているように思います。その衝動は少なくとも他人に不快感を与えたいというようなものではありません。行き過ぎか行き過ぎでないかは別問題として、ほとんどの場合それらはポジティブな欲求だと思われます。もちろんそのポジティブさが高じ一種の特異点を超えてしまい「不気味」という次元に突入してしまうケースもないとは言えません。しかしわたくしはそんな動機に立っての加工を否定するタイプの人間ではないのです。

どうして女性が化粧をするのでしょうか? あるいは男性が髪を整えたりスーツに一過言持ったりするのでしょうか?これらの動機は自己満足的な部分が出だしにあったにせよ、さほど仮想空間におけるアイコンの加工と大差はないことです。誰だって人から良くみられたい。それが簡易な方法で手に入るのならそこへ雪崩をうって突き進みアプリ会社の収益も右肩上がり。そのような構造がファッション界やビューティー界、なんにせよリビドー由来から発動される全ての収益体系は、「自分を良く見せたい欲求」そのような「快楽」と無関係ではないだろうと感じます。なぜならそれらはすべてわたくしたち同士を「つなげる装置」だからです。

どうして繋がらなければならないのか? 言うまでもなく子孫繁栄、種の保存。だからわたくしたちのすべての欲求や快楽的なるものは、異性とつながるため、もちろんわたくしは同性愛も支持しますから、それら「愛情」によって次の世代を「産み・育てる」ための宇宙の動機づけに他ならないと感じています。様々な愚かしい行為。自己承認欲求。自己受容感。不適切な言動や行き過ぎた見せかけなどなど、それらはすべて愛すべき人間の愚かしさや抑えきれない欲求に基づいていて元を正せば子供を作るためのものです。生物的に子孫を産み育てる役目の能力的ピークと言うものはあるにもかかわらず、不思議なのはそれを超えても人間には「うつくしさへの渇望」がある、と言うことです。

おそらくそれらも性衝動と密接のように思われます。しかしそれを自覚しているのか、無自覚的なのか、その本性というものまで測ることはできません。ただうつくしさへの果てなき欲求というものがどこから来てどこへ行くのか、「性との距離」というものを無視できないようには感じます。おそらく、誰かが誰かに惹かれるという本質は「子供」という未来を作るための起動装置であって、その補助役としての「うつくしさ」、そして「子孫繁栄の役目」を終えてから望むうつくしさでは、「うつくしさの役目」も違うだろうと思われます。だからこそ、例えば「アンチエイジング」という価値観に対して込められているコンセプトが、「若い頃の肉欲的な価値観」に立脚していると的外れで少々気色の悪いものになる。一方で、「性から距離をおいた学びの境涯」というものに立脚していると、(自然と)(無理せずとも)(結果的に)アンチエイジングになっているのだろうと思います。わたくしはそんなうつくしいひとに対する絶大なる信奉者です。


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柘植伊佐夫
人物デザイナー / ビューティディレクター

60年生まれ。ビューティーディレクターとして滝田洋二郎監督「おくりびと」や野田秀樹演出「EGG」「MIWA」などの舞台、マシュー・バーニーの美術映像など国内外の媒体で活動。 08年より「人物デザイン」というジャンルを開拓し、大河ドラマ「龍馬伝」「平清盛」、映画「寄生獣」「進撃の巨人」、舞台「プルートゥ」などを担当。作品のキャラクターデザイン、衣装デザイン、ヘアメイクデザイン、持ち道具などを総合的に生み出している。


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